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17. 印象操作 (2012/3/31 4/1微修正)

mogmemoさんをめ ぐる騒動についての考察 という文章があります。 匿名でこの記事1つだけの「ブログ」ですが、

  国立大学の先生方:例の動画は、youtubeで一発削除になるレベル(実際なっ
  ている)の名誉毀損・人権侵害に関わるような内容なのだが、残念ながら国
  立大学先生方がその拡散に関わっていた.例の動画のtwitter上での拡散のト
  スを上げたのが東工大の牧野教授、それに全力でのっかったのが群馬大の早
  川教授である.正直、そんなに低い人権意識を露呈して大学の先生として脇
  が甘くないですか?と心配せざるを得ない.
と私のことが名前を出して書いてあるので少し詳しくみてみましょう。

このブログ作者氏の主張は

   mogmemoさんが世論操作したのではなく、ある種の人たちに勝手にイメージ
   を作られ、世論操作の道具として利用された可能性が非常に高いということ
   だ.
というものです。その根拠は、この人が mogmemo氏のツィートを読んだ結果

   ●専門性を隠してステマしてた?→違った.去年の3月に普通に言ってた.
   いきなり言ってた. 

   ●素人のフリしてた?→ちがった.放射線のリスクや疫学の専門家でない
   と言っていただけ. 

   ●アンケートを作ることについては去年8月の段階で普通に言ってた.

   ●放射能を心配する人やお母さんをバカにしてる?→違った。ふつうに心
   配してた.
ということがわかったからだそうです。で、動画を作った人や study2007 さ んが上に書いてあるようなこと、つまり、

   ●専門性を隠してステマしてた
   ●素人のフリしてた
   ●アンケートを作ることを隠していた
   ●放射能を心配する人やお母さんをバカにした
というような嘘の主張をした、ととれるような書き方をしているわけです。 なお、このブログ作者氏は大変注意深い人であるようで、 動画を作った人や study2007 さんが実際にこのような主張をした、とは かかず、上のようなイメージが「作られた」と一切証拠をあげることなく 書いています。

ところが、実際に動画をみたり study2007 さんのまとめ 世論操作 公的共同研究に関連したTwitter監視・意識誘導試験の疑いとネットリテラシー について を読んでみると

   ●専門性を隠してステマしてた
   ●素人のフリしてた
   ●アンケートを作ることを隠していた
   ●放射能を心配する人やお母さんをバカにした
というような主張はどこにも見つけることができません。なにかが書いてある、 ということはその部分をあげることで示すことができますが、書いてない、と いうのは動画をみていただくとかまとめを読んでいただくしか示す方法はない ので、きちんと動画全体をみたりまとめを隅から隅まで読んで確認していただ ければと思います。

動画を作った人自体、 特に公開されてなかった個人情報を出しているわけではなく、 例えば 2010年11月28日前後に明治大学で開催されたリスク関係の学会で賞を もらった、というような mogmemoさんが書いていることが、 学会のサイト に公開されている賞の内容・日付と一致している、と指摘しているわけです。

そういうわけで、

   今回の件は確実に名誉毀損・人権侵害にあたるので、早急な救済が必要と
   思う.
となかなか強い主張がされているわけですが、その具体的な根拠はどこにある のかはこのブログの文章をみていくとどこにも具体的には書いてないことがわ かります。

まあ、微妙に嘘をまぎれこませていて、

   例の動画は、youtubeで一発削除になるレベル(実際なっている)
と書いてあるのですが実際にはそうではなく作者の方本人(を名乗る人)による と役目を終えた、いうことで削除したとのことで、実際に「ユーザーにより削 除」という表示になっています。

仮にこの mogmemo さんがこれまで数次にわたって原研からの委託研究でアンケー トを行ってきた人であるなら、アンケートのやり方があまりに稚拙でありまと もな社会調査のレベルに達していない、という問題はなかなか大きいように思 われます。まあその、別人だったとしてもアンケートに問題があることは 変わりません。

具体的には、

ウラン鉱山跡措置におけるリスクコミュニケーション手法の研究 においては

  回答者の年齢ヒストグラムを図 3.3-1に示す。 60-70代の回答者が 48%、
  40-50代が33%と年配の回答者が多く、これは電話帳を用いたサンプリングをお
  こなったためと考えられる。

  回答者の男女比の表を表 3.3-2に示す。男性 53.6%、女性 43.6%と男性が女
  性に比べて有意に多かった。これも電話帳によるサンプリングをおこなったた
  めと考えられる。
といった記述がなされています。これは社会調査では通常とられる基本的な手法 である層化ランダムサンプリングを使っておらず、さらにサンプルの年齢分布、 性別の分布が母集団のそれと大きく異なることによるバイアスの補正もしてい ない、ということを意味します。電話帳に名前を載せている人、というのは地 域住民の無バイアスなサンプルではないので、この時点で意味があるアンケー トではありません。

ブログ作者氏は

   市民としてはちゃんと実態を反映するアンケートをしてほしいだけ。
と書いているのですが、この願いは残念ながら実現されていないようにみえます。 かなり大きな金額での受託研究でこのようなやり方 でいいものかどうかは、委託元が判断する問題ですから ここでは立ち入りません。

統計的手法等に大きな間違いがあって間違った結果になった(といっても当初は 気が付かれなかった)論文が大きな賞を獲得したり、あるいはしそうになったり することは自然科学の分野でも珍しいことではないので、このことはこの日本 リスク研究学会のレベルに問題があるとかそういうことを示唆するものではな いと考えます。

なお、mogmemo さんは今年度の委託研究の結果と思われるものを 1/24 にいくつか ツィートしていますが、委託元であるJAEA には以下の 規定が あります。

  (成果の報告及び公表)
   第13条 機構は、当該委託研究の成果について、受託者から書面によ
           り報告を受けるものとする。 
      2    機構は、委託研究期間中において必要と認めるときは、受託者に
           中間報告をさせることができる。  
      3    機構は、受託者に委託研究の成果を公表させないものとする。た
           だし、書面によりあらかじめ機構の同意を得た場合は、この限り
           ではない。  
従って、mogmemo さんの情報発信は、上の規定に反するものであるかあるいは JAEA の書面による同意を得たものである可能性がある、ということになります。 前者であれば規定違反ですから、どちらであるかは問題と思われます。

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