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129. How I Learned to Stop Worrying and ... (2015/12/26)

タイトルはもちろん「博士の異常な愛情」ですが、私が水爆を 愛するようになったわけでありません。

18日のPCクラスタシンポジウムのパネルにでられた方は既にご存じの通り、 牧野の本務は 2016/3/1 付けで神戸大学理学系研究科惑星学専攻となります。 理研 AICS は兼務となり、研究部門粒子系シミュレータ開発チームリーダー、 エクサスケールコンピューティング開発プロジェクト副プロジェクトリーダー ならびにエクサスケールコンピューティング開発プロジェクトコデザイン推進 チームリーダーはまだお役御免になってなくて当面継続です。

私としてはお役御免になることに全くやぶさかではないのですが、今のところ は、ということです。

私は、ポスト「京」のプロジェクトのうち「加速部」について責任を持 つためにAICSを本務としたので、加速部がなくなることが確定した昨年7月以 降(本務にしてから3ヶ月ですが、、、)、AICSに本務としてとどまる理由はな くなっています。粒子系シミュレータ FDPS の開発は元々兼務の時からやって いたことで、これのために AICS を本務にする必要はありません。

ポスト「京」のほうではコデザイン推進チームチームリーダーということで、 何が仕事なのかよくわからないですが、現在のプロジェクトの中で私が 責任をもつべき仕事はポスト「京」向けの粒子系アプリケーションの開発・ 最適化と、粒子系及び格子系向けのアプリケーション開発フレームワークの 開発となっていると私は理解しています。その他、重点アプリケーションに ついても責任者というわけではないですが問題対応・調整はします。

私は、現在の形、すなわち、単一のベンダが単一の汎用メニーコアプロセッサ だけを開発する、という形で、ポスト「京」のプロジェクトが継続していくこ とは、日本の計算科学コミュニティ及び HPC 産業の双方にとって好ましくな い結果につながると考えています。これは、「京」のプロジェクトの間そうで あったように、ポスト「京」のプロジェクト期間中、文科省の予算で HPC 向 けのプロセッサの研究開発を行うことが事実上不可能になるであろうと考えら れるからです。このため、日本は(まあどうせ既に失っているから今更だとい う意見はあると思いますが)、今後の HPC 向けの、国際的に競争力をもつ プロセッサを開発する機会を今後6-7年は失うことになります。これは、 「京」の開発が始まってから起こったことが繰り返されるからです。

「京」の開発がはじまった後は、本来並行して、例えば CREST 程度の規 模で、将来の HPC 向けプロセッサアーキテクチャの研究開発が行われている べきだったのですが、 CREST で実際に進められたのはアプリケーションやミ ドルウェアの開発であり、それぞれかなり大きな研究費が投入されているにも かかわらず、肝心のプロセッサアーキテクチャには1円も投じられてきません でした。「京」が完成した2012年度になって初めてフィージビリティスタディ としてアーキテクチャ「検討」が2年間行われただけです。

何故そのようなことになってしまったか、というと、「京」の開発は「最先端 の、最高のプロセッサを開発するもの」であるという大義名分があるので、そ れ以外のものを開発するというプロジェクトを始めることは「京」の開発の大 義名分と矛盾する、というのが文部科学省(ないし財務省)の論理であるからで す。ポスト「京」においても、実際にプロジェクトが始まってしまうと それ以外のプロセッサ研究開発プロジェクトはなにも始められなくなるので、 なんとかして始めからポスト「京」プロジェクトの中に汎用メニーコア以外の もうちょっと将来をみたものをいれておこう、というのが私及び加速部関係者 のもくろみであったわけですが、これは色々な経緯があって失敗に終わりまし た。

もちろん、「京」の時にも、同じようになんとかしてアクセラレータをいれようとして、コスト度外視の「アクセラレータがなくても目標達成できる」という論理と「アクセラレータの消費電力は 10MW程度」という謎主張(113 参照)に阻まれたわけですが、まあ1度あることは2度ある、ということではあります。

そんなのは1度やった時点で学習しろよ、馬鹿じゃないの?と言われるとまあそうで、まあ、私が馬鹿であったということです。

そういうわけで、ポスト「京」のプロジェクトはアーキテクチャも「京」の後 継となり、「京」において既に存在していた問題を、8年の歳月がたったにも かかわらずアーキテクチャの根本的な見直しがないという意味より悪化させた 形で引き継ぐものとなりました。これは、誰かに責任があるとかそういうもの では既になく、文部科学省の組織構造と、政策判断・意思決定のプ ロセス自体が持つ問題が現れたものであると現時点では私は考えています。

まあ、なので、そういう問題の拡大再生産を主な仕事にするわけにもいかない ので、そのためにはポスト「京」プロジェクトが本務、という形は続けるわけ にはいかない、と昨年7月から考えていました。そういうわけで、いくつか大 学のポストに応募して、最初に興味をもってくれたのが神戸大学惑星学専攻だっ た、ということになります。個人的にも、星団の進化等から惑星形成・進化の 研究に興味を広げてきたところでもあり、自分にあった場所であると思ってい ます。

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