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上へ: Stellar Dynamics Lecture Note

pt 称

重力多体系の進化

牧野淳一郎

1 非等方モデル

(今回ここは詳細省略)

非等方ということは、分布関数が $f(E,L)$の形で書けるということである。 まず、密度 $\rho$がどう書けるかを考えてみよう。一般の分布関数で、密度 は単に $f$を速度空間全体で積分したもの

\begin{displaymath}
\rho = \int f({\cal E}, L)d^3{\bf v}
\end{displaymath} (1)

である。速度を極座標$(v,\eta,\psi)$を使って
\begin{displaymath}
v_r = v\cos\eta, \quad v_{\theta} = v\sin\eta\cos\psi,
\quad v_{\phi} = v\sin\eta\sin\psi
\end{displaymath} (2)

とすれば、角運動量の定義から
\begin{displaymath}
\rho = 2\pi \int_0^{\pi}\sin \eta d\eta \int_0^{\infty}f(\Psi-v^2/2, \vert rv\sin\eta\vert)v^2dv
\end{displaymath} (3)

となる。

1.1 Osipkov-Merritt モデル

一般に $f$$L$に依存するしかたというのは無限にあるわけだが、以下、 そのなかで割と扱いやすいものとして、分布関数が

\begin{displaymath}
Q = {\cal E}- {L^2 \over 2r_a^2} = \Psi - {1 \over 2}v^2
\left(1 + {r^2 \over r_a^2} \sin^2 \eta\right)
\end{displaymath} (4)

の関数として書ける場合というのを考えてみる。これは Osipkov-Merritt モデ ルと呼ばれるものである。

まず、この Q の直観的な意味だが、 ${\cal E}$


\begin{displaymath}
{\cal E} = -E + \Phi_0 = \Psi - v^2/2
\end{displaymath} (5)

というものだったので、


\begin{displaymath}
-Q = E+{L^2 \over 2r_a^2}-\Phi_0
\end{displaymath} (6)

となる。つまり、角運動量 $L$ が大きい、というのが $E$ が0に近いのと同 じ方向に分布関数にはいってくる。

8cm \epsffile{omconcept.eps}

この状況を図に示す。 E と L の平面で考えてみよう。まず、ポテンシャルが 与えられている時に、エネルギーを決めると角運動量は対応する円軌道の場合 に最大値になるので、分布関数は $L=L_{max}$ の線の左側でしか値をとらな い。等方モデルの場合には、 $f$$L$ に依存しないので、$f$ の等高線は 水平線であるが、 $Q$ が一定の線は赤で示した上に凸な放物線になる。

Eが負の大きな値の場合(ポテンシャルの底に近い場合) では、どうぜ $L$ の取り得る値の範囲が狭いので、実は等方的な場合とあま り変わらない。これに対し、外側の $E=0$に近いところでは、等方の場合から 大きくずれる。例えば、元々の分布関数が $E\rightarrow 0$ まで値をもつ場 合でも、OM モデルの場合には原点から始まる等高線が $f$ の限界になってそ の右上では分布関数は 0 になるので、あまり角運動量の大きな粒子はないし、 エネルギーが 0 に近いほどとりえる角運動量の範囲は狭くなる。

このような傾向は、例えば楕円銀河などの形成過程についてのいろいろなシナ リオで自然に起きること(そのうちに扱う)であり、理論的に調べられている 非等方モデルは大抵上のような角運動量でカットオフを持つようなモデルになっ ている。

なお、非等方性の重要な観測的応用として、楕円銀河の中心部の構造のモデル があるが、これについては後で時間があれば触れることにしたい。

上の密度の速度空間における積分を $Q$で かきかえると

\begin{displaymath}
\rho = 2\pi \int_0^{\pi}\sin \eta d\eta \int_0^{\Psi}f(Q)
{ \sqrt{2(\Psi - Q)} \over [1 + (r/r_a)^2\sin^2\eta]^{3/2}}dQ
\end{displaymath} (7)

となる。($Q\le 0$ なら $f(Q)=0$とした)ここで、とても素晴らしいことに
\begin{displaymath}
\int_0^{\pi}{\sin \eta d\eta \over [1 + (r/r_a)^2\sin^2\eta]^{3/2}}
= {2 \over 1 + (r/r_a)^2}
\end{displaymath} (8)

となるので、上の積分は
\begin{displaymath}
\left(1 + {r^2 \over r_a^2}\right)\rho(r) = 4\pi
\int_0^{\Psi}f(Q)\sqrt{2(\Psi-Q)}dQ
\end{displaymath} (9)

という具合になって、これは実は$f(E)$の時の式
\begin{displaymath}
\rho(r) =4\pi\int_0^\Psi f({{\cal E}})\sqrt{2(\Psi - {{\cal E}})} d{\cal E}.
\end{displaymath} (10)

と非常に良く似た形になり、$f$を与えれば$\rho$を求めることができる。

2 ジーンズ方程式、ビリアル定理

2.1 Jeans Equations

ここまでは、 Collisionless Boltzman 方程式から出発して、 Jeans の定理 を使って球対称な恒星系のモデルをいろいろ見てきた。これからしばらく Collisionless Boltzman 方程式のいろいろな平均(モーメント)をとること によって恒星系の性質を見ていくことにする。

まず、ジーンズ方程式を扱う。これは、形式としては流体の場合のオイラー方 程式、要するに運動方程式にあたるものである。導出は結構面倒なので少し丁 寧に進める。


\begin{displaymath}
{\partial f \over \partial t} + {\bf v}\cdot \nabla f - \nabla \Phi \cdot
{\partial f \over \partial {\bf v}} = 0,
\end{displaymath} (11)

Collisionless Boltzman 方程式は式11で与えら れるが、これをまず速度空間全体で積分してみる。と、まず第3項は発散定理 によって表面積分に置き換えられ、 $\vert v\vert\rightarrow \infty$の極限で $f$は 十分速く$0$にいくので(普通は有限の$\vert v\vert$で0になってないと、自己重力的 にならない)、結局 0 になる。最初の2項は

\begin{displaymath}
\nu = \int fd^3{\bf v}; \bar{v}_i = {1 \over \nu}\int fv_id^3{\bf v}
\end{displaymath} (12)

と置いてやれば(密度と、局所的な平均速度)
\begin{displaymath}
{\partial \nu \over \partial t} + {\partial (\nu \bar{v}_i) \over
\partial x_i} = 0
\end{displaymath} (13)

これは、流体の場合の連続の式と同じものである。さらに、速度の1次のモー メントをとるためにCollisionless Boltzman に $v_j$を掛けて積分してみる と、
\begin{displaymath}
{\partial \over \partial t}\int f v_j d^3{\bf v}+ \int v_i v...
...l x_i}
\int v_j {\partial f \over \partial v_i}d^3{\bf v}= 0,
\end{displaymath} (14)

というような式が出てくる。但し、 $i$ についての和をとっていることに注意。

さて、$v_jf$について発散定理(1次元)を使えば

\begin{displaymath}
\int v_j {\partial f \over \partial v_i}d^3{\bf v}
= -\int {\partial v_j\over \partial v_i} fd^3{\bf v}
= -\delta_{ij}\nu
\end{displaymath} (15)

となるので、結局
\begin{displaymath}
{\partial (\nu {\bar{ v}}_j) \over \partial t} + {\partial (...
...\over\partial x_i} + \nu {\partial \Phi \over\partial x_j} = 0
\end{displaymath} (16)

但し、 $\overline{v_iv_j}$$v_iv_j$の局所平均である。もうちょっと見 通しの立つ式にするために、まず連続の式を使って第一項から $\partial \nu
/\partial t$を消すと
\begin{displaymath}
\nu {\partial {\bar{ v}}_j \over \partial t} -{\bar{ v}}_j {...
...ver \partial x_i} + \nu {\partial \Phi \over \partial x_j} = 0
\end{displaymath} (17)

さらに、
\begin{displaymath}
\sigma^2_{ij} = \overline{(v_i - {\bar{ v}}_i)(v_j - {\bar{ v}}_j)}
\end{displaymath} (18)

を使って書き直すと
\begin{displaymath}
\nu {\partial {\bar{ v}}_j \over \partial t} + \nu {\bar{ v}...
...\over x_j} -
{\partial (\nu \sigma^2_{ij}) \over \partial x_i}
\end{displaymath} (19)

これは、流体の場合のオイラー方程式(運動方程式)と大体同じ格好になって いる。左辺は平均の流れに沿ってみた平均速度の Lagrange 微分であり、右辺 第一項はポテンシャルから力である。

最後の項は普通なら圧力の項が出てくる。流体と違うのは、ここが非等方的な stress tensor $\sigma^2_{ij}$になっているということである。

なお、いうまでもないが、速度分布が等方的であれば stress tensor は $\sigma^2 I$$I$は単位行列)の形に書ける。さらに、等方的でない場合に は、 $\boldmath {\sigma}^2$は対称テンソルなので適当な座標系の回転により 対角化出来る。例えば $f(E,L)$で書ける時には、一つの軸を原点に向けてと れば対角化されるわけである。

2.2 例:球対称恒星系の $M/L$

密度分布が球対称で平均の流れがない場合、極座標系での Jeans equation は以下の形に書き直せる:

\begin{displaymath}
{d(\nu \overline{v_r^2}) \over dr} +
{\nu \over r} \left[2 \...
...+ \overline{v_{\phi}^2}\right)\right] = -\nu {d \Phi \over dr}
\end{displaymath} (20)

(証明は、、、まあ、面倒なだけなので省略) もうちょっと話を簡単にするために、等方的な場合を考えると、結局
\begin{displaymath}
{1 \over \nu }{d(\nu \overline{v_r^2}) \over dr}
= - {d \Phi \over dr}
\end{displaymath} (21)

すなわち
\begin{displaymath}
M(r) = - {r \overline{v_r^2} \over G}\left({d \ln \nu \over d \ln r}
+{ d \ln \overline{v_r^2} \over d \ln r}\right)
\end{displaymath} (22)

つまり、密度と速度分散の半径方向の分布がわかれば、質量分布が決まるとい うことになる。

ここで注意してほしいのは、 $\nu$は質量を反映していないもの、例えば星の 数とか、あるいは単位体積あたりの luminosity の分布でも構わないというこ とである。これは、もともとの Collisionless Boltzman 方程式は保存する量 であればなんでもなり立つからである。さらに、球対称、等方を仮定したので、表面 輝度分布や視線方向速度分布から輝度密度と速度分散の空間分布を求められる ので、これらから「実際にどれだけの質量があるはずか」を求められるわけで ある。これから、 $M/L$の空間分布が決まることになる。楕円銀河の中心に大 質量ブラックホールがあるというような話は、もっとも簡単にはこのようにし て質量を推定する。

なお、逆に、$M/L$を一定として、速度の非等方性の空間分布を求めることも できる。多くの、中心に大質量ブラックホールがあるとされている楕円銀河で、 非常に非等方性の高い速度分布を作れば観測された密度と速度分散の分布が説 明できないわけではないということが示されている。

2.3 例の続き:球状星団の中心にブラックホールはあるか?

2002の9月に、球状星団 M15 の中心に太陽質量の 3000倍の質量のブラックホー ルを発見したという論文が発表され、 STScI がプレスリリースを大々的に行っ たので日本の新聞でも報道された。まあ10年前なのでそろそろおぼえている人も少ないかもしれない。

新聞発表はこんなの:


宇宙望遠鏡科学研究所のファン・デア・マレル博士が率いるチームは、ペガサス 座の方向、3万2千光年の彼方にある球状星団 M15 にブラックホールを発見し ました。彼の協力者で、やはり宇宙望遠鏡科学研究所のゲルセンは、ブラック ホールの質量が太陽の4000倍だということを突き止めました。


これまで、 X線での観測で .... 星形成銀河に非常に明るい X 線源が見つかっ ていました。これは中間質量ブラックホールとも解釈できるものでしたが、 他の解釈もできるものでした。これに対し、ハッブル(宇宙望遠鏡)による測定は、 個々の星の速度に基づくもので、直接ブラックホールの質量を与えるものです。

これは、ジーンズ方程式の利用のいろんな意味で教育的な例になっているので、 少し詳しく見ていこう。

まず、観測はどういうものかというとこの図

10 cm \epsffile{vandermarel_pap2.fig10.ps}

が基本である。ハッブル宇宙望遠鏡の分光器を使って、球状星団の中心部のい くつかの星の視線速度を測定し、それから速度分散を求める。で、何故ブラックホールがあることになるかというと、下の図のような話である。

15.5cm \epsffile{vandermarel_pap2.fig11.ps}

つまり、

  1. $M/L$ が一定と仮定して、表面輝度の分布から質量分布を求める。

  2. 質量分布からジーンズ方程式を使って速度分布を求めてみる。

  3. これは、定数をふってみても速度分布の観測結果とあわない

  4. 中心にいろいろな質量のブラックホールを仮定して、速度分布を計算し なおす

  5. $\chi^2$ 残差が最小になったところで、「ブラックホール発見!」

まあ、今までに説明した通りの解析である。表面輝度はこんな感じである。

8.cm \epsffile{SK1997fig6.ps}
8.cm \epsffile{Guhathakurta1997fig6.ps}

左: Sosin & King 1997, 右: Guhathakurta et al. 1996.

教科書通りの解析でブラックホールがあって論文になるならそれは結構なわけ だが、この場合世の中はそんなに甘くない。何故かというと、球状星団では (この講義の3-4回後ででてくる理由で)系が熱力学的に進化しており、 $M/L$ が一定という仮定が成り立たないからである。

熱力学的な進化を簡単にいうと、星の系も普通のガスと同じようにエネルギー 等分配を成り立たせようと方向に局所的な速度分布が進化する。このため、速 度分散が初め同じだとすると、重い星は軽い星にエネルギーを与えて速度を小 さくしようとする。

ガスなら速度が小さくなって終わりだが、恒星系ではジーンズの定理というも のがあるので話はそんなに簡単ではない。つまり、重い星が軽い星にエネルギー を与えるということは、分布関数 $f$ が星の質量に依存するようになって、 重い星はエネルギーが低いところに動くということになる。

これはつまり、エネルギーが低い、より中心近くを運動する軌道に移るという ことである。つまり、星の質量分布がある恒星系が熱力学的に進化すると、重 い星が中心に集まってくる。球状星団では最も重い星は初期に大質量星が超新 星爆発してできた中性子星や、もうちょっと軽い星が進化してできた比較的重 い白色矮星であり、どちらも暗い。つまり、球状星団の $M/L$ が半径によら ないと考えるのはかなり無理がある。というわけで、このブラックホールは怪しいのでは?と私を含めていろんな人が思った。

とはいっても、「間違ってるかもしれない」というだけでは人は納得しないの で、数値シミュレーションで球状星団を生まれた時から現在まで進化させて、 速度分散と輝度分布がどうなるか見てみることにした。 M15 は「コア崩壊型」 と呼ばれる、中心に向かってどこまでも密度が上がるタイプの星団なので、現 在ちょうどそのような密度(輝度)分布になるように初期条件を選んでみた。 星の質量分布とかは普通に太陽近傍の観測から示唆されているものを使う。

結果は Baumgardt et al., ApJ 2003, 582, L21 になって論文にしたわけだが、速度分散と輝度分布はそれぞれこんな感じになる。

8.cm \epsffile{cfig1.eps}
8.cm \epsffile{cfig2.eps}

で、観測の人達と同じように $M/L$ 一定を仮定して解析すると

9.cm \epsffile{cfig3.eps}

星だけでは中心で質量が足りなくて、ブラックホールが必要という結果になる。 モデル星団は M15 より軽いので、その分をスケールすると、大体 3000太陽質 量くらいのブラックホールがあるという結論になる。

まあ、そういうわけで、多分ブラックホールではなくて普通に熱力学的な進化 の結果中性子星等が中心に集まっているだけであろう。

という話で終わると、観測で論文書いた人が間抜けな感じがするが、実はもう ちょっと話は複雑である。彼らは、 $M/L$ が一定ではない解析もしていて、 それは別の人(Dull et al. ApJ 1997)の、我々のと同じような数値シミュレーションの結果を使ったも のであった。

12.cm \epsffile{vandermarel_pap2.fig12.ps}

これであまり結果が変わらなかったから、彼らは安心して「ブラックホールが ある」という結果を発表した。しかし、これはおかしな話で、実は Dull et al. のモデル星団はハッブルのグループの解析より高い速度分散を与えていた。

7.8cm \epsffile{vandermarel_pap2.fig12.ps}
7cm \epsffile{Dullfig6.ps}

使っている輝度分布は同じなので、同じジーンズ方程式と同じ $M/L$ プロファ イルを使えば同じ速度分散が求まらないといけないのに、違う。

これは実は、 Dull et al. の $M/L$ プロファイルのグラフが大嘘で、横軸が 3 倍間違っていたからだということが後で明らかになった。

10.cm \epsffile{Dullfig12.ps}

で、解析しなおすと、、、

15.5cm \epsffile{Gessenrevfig12.eps}

ブラックホールはなくてもいいという、真っ当な結果になってしまった。

この結果については、 STScI ではなく NASA HQ からプレスリリースがでている。

「ブラックホールがある」という結論を出した人達の解析方法には間違ったと ころがあったわけではないが、彼らが使った、他の人 (Dull et al.)の計算結果の論文のグラ フの1つの横軸が間違っていた。こんな間違いは避けようがない、と思うかも しれないが、この場合はそうでもない。というのは、 Dull et al. の理論モ デルの速度分散と、彼らが求めた速度分散がそもそもあってなかったので、 解析の過程のどこかに間違いがあるのは明らかだったからである。

まあ、最先端の、プレスリリースになるような研究でも、結構間違いというも のはある、というのが一つの教訓である。

3 ビリアル定理

前節では、Collisionless Boltzman 方程式の速度空間でのモーメントを考え て Jeans 方程式を導いた。ここではさらに空間全体のモーメントをとる。

16において、密度 $\nu$を質量密度 $\rho$で置 き換え、さらに $x_k$を掛けて空間全体で積分する。

\begin{displaymath}
\int x_k {\partial (\rho {\bar{ v}}_j) \over \partial t}d^3{...
...}d^3{\bf x}- \int \rho x_k{\partial \Phi
\over x_j} d^3{\bf x}
\end{displaymath} (23)

右辺の最初の項は、例によって発散定理を使って書き直せる。
\begin{displaymath}
\int x_k {\partial (\rho \overline{v_iv_j}) \over x_i}d^3{\b...
... \int \delta_{ki} \rho \overline{v_iv_j} d^3{\bf x}= -2 K_{kj}
\end{displaymath} (24)

これは、運動エネルギテンソル $\boldmath {K}$の定義を与える。ついでに第 二項はポテンシャルエネルギーテンソル $\boldmath {W}$と呼ばれるものであ る。

さらに、 $\boldmath {\sigma}^2$の定義を使って、

\begin{displaymath}
K_{jk} = T_{jk} + {1 \over 2} \Pi_{jk}
\end{displaymath} (25)

但し
\begin{displaymath}
T_{jk} = {1 \over 2} \int \rho {\bar{ v}}_j {\bar{ v}}_k d^3...
... x}, \quad
\Pi_{jk} = \int \rho \sigma_{jk}^2d^3{\bf x}, \quad
\end{displaymath} (26)

さらに、 $j,k$ についての式と $k,j$についての式を足してやると


\begin{displaymath}
{1 \over 2} {d \over dt} \int \rho (x_k {\bar{ v}}_j + x_j {\bar{ v}}_k) d^3{\bf x}
= 2T_{jk} + \Pi_{jk} + W_{jk}
\end{displaymath} (27)

さらに、慣性モーメントテンソル
\begin{displaymath}
I_{jk} = \int \rho x_j x_k d^3{\bf x}
\end{displaymath} (28)

を導入して、連続の式とか発散定理とかを使うと
\begin{displaymath}
{dI_{jk} \over dt} = \int \rho (x_k {\bar{ v}}_j + x_j {\bar{ v}}_k) d^3{\bf x}
\end{displaymath} (29)

で、結局
\begin{displaymath}
{1 \over 2} {d^2 I_{jk} \over dt^2} = 2T_{jk} + \Pi_{jk} + W_{jk}
\end{displaymath} (30)

これをテンサービリアル定理という。

さて、今定常状態 ($I$の時間微分が0)を考え、さらに上の式のトレースを とってみると、$T$, $\Pi$ の定義からこれらの寄与は全運動エネルギー$K$の 2倍になる。$W$の方は、$\Phi$の定義を使えば

\begin{displaymath}
W = \int \rho \sum_k x_k {\partial \Phi \over \partial x_k} ...
...k') \over \vert{\bf x}-
{\bf x}'\vert^3}d^3{\bf x}d^3{\bf x}'
\end{displaymath} (31)

ここで ${\bf x}$${\bf x}'$を入れ換えた積分を書き、両方を足すと


\begin{displaymath}
W = {1\over 2} \int \int \rho({\bf x})\rho({\bf x}') \sum_k ...
... d^3{\bf x}d^3{\bf x}' = {1 \over 2} \int \rho \Phi d^3{\bf x}
\end{displaymath} (32)

というわけで、 $W$は系の全ポテンシャルエネルギーである。結局、
\begin{displaymath}
2K + W = 0
\end{displaymath} (33)

が成り立つ。これを、スカラービリアル定理、または単にビリアル定理という。

今、系の全エネルギーを Eとすれば、 $E=K+W$であるから、

\begin{displaymath}
E = -K = W/2
\end{displaymath} (34)

ということになる。つまり、定常状態にある自己重力恒星系では、必ず全エネルギーは ポテンシャルエネルギーのちょうど半分であり、絶対値が運動エネルギーに等 しい。これは球対称とかそういう仮定なしに常に正しい。

4 ビリアル定理の応用

4.1 系の「比熱」

これまで何度か強調してきたように、無衝突ボルツマン方程式 CBE で記述さ れるシステムの力学平衡状態は熱平衡ではないし、自己重力系は熱平衡ではあ りえない。しかし、 King model のように近似的に熱平衡なものもあるので、 ここでエネルギーの出入りに対する系全体の応答、つまり比熱というものをちょっ と考えてみることにする。

ビリアル定理から $K = -E$ であったので、すぐにわかるように「エネルギー を奪うと運動エネルギーが増え、逆ならその逆になる」ということになってい る。つまり、見かけ上比熱が負になっている。

これは重力が効く系では普通のことで、例えば地球を回る人工衛星といったも のでも同様のことが起こっているわけである。

この、「見かけ上比熱が負」ということが、熱力学的不安定を通して構造形成 (自己組織化)が起きる基本的な理由である。

4.2 系の質量、 $M/L$

まず、系の「大きさ」についてどんなことがいえるかということをおさらいし ておく。$W$は全ポテンシャルであったので、定義により以下のように書ける:

\begin{displaymath}
W = -{1 \over 2} \sum_{i \ne j} {G m_i m_j \over \vert{\bf r}_i - {\bf r}_j\vert}
\end{displaymath} (35)

今、粒子の質量がすべて等しい場合(あるいは、分布関数が質量によらない場 合)を考えると、
\begin{displaymath}
r_v = \left< {1 \over \vert{\bf r}_i - {\bf r}_j\vert} \right>^{-1}
\end{displaymath} (36)

を導入して、
\begin{displaymath}
W = { -GM^2 \over 2r_v}
\end{displaymath} (37)

と書ける。この $r_v$ を普通ビリアル半径という。なお、 $r_g = 2 r_v$ の ことを gravitational radius 重力半径ということもあるが、「重力半径」と いうと時と場合によってはシュワルツシルト半径だったりすることもあるので 注意すること。とにかく、この $r_v$ を使って、$K = -W/2$を書き直せば
\begin{displaymath}
\vert v^2\vert = {GM \over 2r_v} = {GM \over r_g}
\end{displaymath} (38)

したがって、速度分散(系全体の平均)とビリアル半径がわかれば質量を決め られる。観測的には、球対称を仮定すれば、3軸方向の速度分散は等しいので、 視線方向の速度分散の3倍が3次元速度分散ということになる。問題はビリアル 半径のほうであるが、もちろん球対称(だけでは本当はだめで、さらに$M/L$ が半径によらずに一定であるという仮定も必要)を仮定すれば表面輝度分布か ら deprojection して計算できる。

大雑把な見積りでよければ、例えばhalf mass radius (質量の半分が入って いる半径)$r_h$ を適当に見積もって、それで $r_v$ の代わりにしてもそれほど大 きな誤差はない。典型的には

\begin{displaymath}
r_h \simeq 0.8 r_v,
\end{displaymath} (39)

程度である。具体例をあげれば、プラマーモデルでは
\begin{displaymath}
r_h = {3\pi \over 16 \sqrt{2^{2/3} - 1}} r_v = 0.77r_v,
\end{displaymath} (40)

ハーンキストモデルでは
\begin{displaymath}
r_h = {(1 + \sqrt2) \over 3}r_v,
\end{displaymath} (41)

であり、仮想的な密度一様の球というものを考えると
\begin{displaymath}
r_h = { 3\times 2^{2/3}\over 5} r_v = 0.95 r_v.
\end{displaymath} (42)

というようなことになる。実際に観測から直接決められるのは、多くの場合 $r_h$ ではなく有効半径 effective radius $r_e$ であり、これは質量ではな くて投影した輝度の半分が入っている半径である。一般に $r_e < r_h$ であ ることはいうまでもないが、まあ、それほど大きな差にはならない。

4.3 回転系の偏平度(あるいは楕円銀河の回転)

今、$z$軸まわりに対称な、回転している銀河を考えると、ポテンシャルテン ソルについては対称性から

\begin{displaymath}
W_{xx} = W_{yy}; \quad W_{ij} = 0 \quad (i\ne j)
\end{displaymath} (43)

で、運動エネルギについても同様にクロスタームは消えるので、結局テンサー ビリアル定理で残るのは
\begin{displaymath}
2 T_{xx} + \Pi_{xx} + W_{xx} = 0;\quad
2 T_{zz} + \Pi_{zz} + W_{zz} = 0
\end{displaymath} (44)

の2つだけである。この2つから、
\begin{displaymath}
{ 2 T_{xx} + \Pi_{xx} \over 2 T_{zz} + \Pi_{zz}} =
{ W_{xx} \over W_{zz}}
\end{displaymath} (45)

となる。今、子午面環流みたいなのはないとすれば、 $T_{zz} = 0$ で、
\begin{displaymath}
2 T_{xx} = {1 \over 2} \int \rho v_{\phi}^2 d^3{\bf x}= {1 \over 2} M
v_0^2
\end{displaymath} (46)

(これは $v_0$、つまり平均の回転速度の定義と思って下さい)。同様に
\begin{displaymath}
\Pi_{xx} = M\sigma_0^2
\end{displaymath} (47)

これは視線方向(横から見ているとして)のランダム速度の平均 (r.m.s)であ る。あと、 $z$方向についてはなにかいえないかというと、 $x$方向との速度 分散の異方性パラメータ $\delta$ を導入して
\begin{displaymath}
\Pi_{zz} = (1-\delta)\Pi{xx}
\end{displaymath} (48)

と書いておくことにする(これは、球対称な系の速度分散の異方性 とはまったく違ったものであることに注意)。これらをまとめると、
\begin{displaymath}
{v_0^2 \over \sigma_0^2} = 2(1-\delta){W_{xx} \over W_{zz}} - 2
\end{displaymath} (49)

ということになる。

さて、 $W_{xx}/W_{zz}$と、銀河の「形」の関係についてであるが、一般に密 度が以下のように書ければ

\begin{displaymath}
\rho = \rho(m); \quad m^2 = a_1^2\sum_{i=1}^3 {x_i^2 \over a_i^2}
\end{displaymath} (50)

言い換えれば、密度が軸比一定の楕円体の表面上で一定なら、 $W_{ii}/W_{jj}$$a$だけの関数で $\rho(m)$の関数形によらないというこ とがわかっている。実際に書くとかなり面倒な形をしているので、具体的な形 は BT をみてもらうことにして、結果だけを使うと、要するに速度の非等方性 $\delta$ と偏平度 $\varepsilon 1 - b/a$を決めれば $v_0 \over \sigma_0$ が決まるということになる。どんな感じかを BT の図から示すと
10cm \epsffile{btfig4-5.ps}
10cm \epsffile{btfig4-6.ps}

まあこんな感じになる。上の図は、 $\varepsilon$の関数として $v_0 \over \sigma_0$ がどう変化するかを、 $\delta$ のいくつかの値について示したも のである。破線は、真横でない方から見たらどういうふうになるかを、いくつ かの場合について示したものである。下の図は、実際の観測結果と $\delta =
0$ の線を重ねて書いてみたものである。暗い楕円銀河は $\delta =
0$ の線 に近いところに集まっているのに対し、明るいものは可能な範囲全体にあり、 どちらかというと下の方(回転が小さく、おそらく異方性が大きいほう)に集 まっているということが見てとれる。このような構造の違いは、それぞれの銀 河がどうやってできたかということになにか重要な手がかりを与えているはず である。

とはいうものの、どうやってできたかということに対する標準的な理解という ものがあるわけでは必ずしもない。ここでは、せっかくなので一つの考え方と して、合体説(楕円銀河のうち、特に大きいものは銀河同士の合体でできた) をとった場合にはどのような説明が可能かということを見てみる。これ以外の 解釈がないというわけではない。

=10cm \epsffile{Okumura1991fig7.ps}

これは Okumura et al. (1991, PASJ 43, 781) によるシミュレーショ ンの結果と上のグラフを重ねたものである。シミュレーションはすべて2つの 等方的で回転を持たないプラマーモデルを2つ放物軌道でぶつけたもので、番 号順に最初の軌道の近点距離が大きくなる( 4 で $r_p/r_h = 2.6$である)。

大雑把にいうと、番号の大きいものほど軌道角運動量が大きいので、 $v_0/\sigma_0$が大きくなる。もっとも、ある程度より大きくなっていないこ とに注意してほしい。これは要するに合体するためにはかなりの軌道角運動量 を捨てないといけないので、残った系が持つ角運動量には上限があるためであ る。

合体後の銀河は特別な場合(1,7)を除いて3軸不等なので、その3方向からみ てグラフ上に点をとり、それを結んで3角形を書いている。大雑把にいって、 適当な方向からみたときにはこの3角形の中にあると思っていい(実際にある 方向から見た時にどう見えるかというのはもうちょっとややこしいが、いまは そのあたりの議論は省く)。

シミュレーションの結果からわかることは、仮に楕円銀河が合体で出来たとす れば、暗いものは初期に近点距離の大きな軌道(おそらく楕円軌道)をもち、 明るいものは近点距離の小さな軌道から合体したものが比較的多いということ になろう。

まあ、もうちょっと素直な解釈は、暗いものは合体ではなく、円盤銀河からガ スがなくなったり円盤が摂動を受けて厚くなったりしてできた、というものか もしれない。

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重力多体系の進化

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Jun Makino 平成25年7月16日