next up previous
Next: 2 参考書など Up: 理論天体物理学特論I Previous: 理論天体物理学特論I

1 はじめに

この講義では、天体物理学の扱う主要な対象の一つである自己重力多体系の進 化について、その概要を扱うことにしたい。

「自己重力多体系」というと、難しそうに聞こえるが、基本的には「たくさん の質点が重力で引き合って、まとまった天体を作っている」というものである。 例えば方程式で書けばすべての粒子が他のすべての粒子からの重力を受けて運 動するというだけのことである。

しかし、実際に宇宙にある自己重力多体系を見ると、非常に多様な進化を遂げ ているということはすぐにわかる。この多様性がもっとも顕著なのは銀河であ り、基本的には重力で星が集まっているだけなのに、円盤(渦巻)銀河、棒渦 巻銀河、楕円銀河、あるいは不規則銀河などじつに多様な形をしたものがある。 また、最近の特に HST による High-Z の観測から、このような銀河の形は進 化してきたものである、例えば昔に遡って見ると「晩期型」銀河のほうが「早 期型」銀河より多い(方向が逆だけど、これは定義の問題)ということがわかっ てきた。

これに対し、例えば「球状星団」と呼ばれる銀河内の星団は、比較的単純な 丸い形をしていて、回転もほとんどしていない。また、半径方向の光度分布に ついても共通の特徴がある。

逆に大きいスケールに移って、銀河群、銀河団といったものを考えると、これ らは(銀河の数が少ないこともあるが)良くわからない形をしているものが多 い。結構丸くまとまっているものもあるが、縦に伸びたもの、二つの銀河団が お互いの回りを回っているものなど、多様な銀河団がある。また、比較的大き な銀河団のなかには、 cD と呼ばれる異常に大きな楕円(ほとんど球に近い) 銀河を持つものが多い。

さらに、ここ 20 年ほどの、大規模な銀河分布についての研究から、宇宙には 銀河、あるいは銀河団が一様に分布しているわけでは全くなく、観測出来るもっ とも大きなスケールで構造が見つかるということがわかっている(もちろん、 これからもっと大きなスケールの観測が進めば、いつかはそういうことはなく なるのかもしれないが)。

以上のようなさまざまな現象は、「自己重力多体系」という描像で(基本的に は)統一的に理解することができる。その統一的な描像の概要を与えるのがこ の講義の目標ということになる。

具体的には以下のようなトピック を扱う。

これらは、 open clusters, globular clusters, galaxies, clusters of galaxies, large scale structures など、要するに大抵の天文学の対象の力 学的な進化(構造の発達など)を考える上での基本となるものである。なお、 実際の研究の現場においては、多くの場合数値シミュレーションが道具として 使われることになるので、その方法論と問題点についても何回か触れることに したい。



Jun Makino
Mon Jul 27 11:10:55 JST 1998