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3 ビリアル定理

前節では、Collisionless Boltzman 方程式の速度空間でのモーメントを考え て Jeans 方程式を導いた。ここではさらに空間全体のモーメントをとる。

6において、密度 $\nu$を質量密度 $\rho$で置 き換え、さらに $x_k$を掛けて空間全体で積分する。

\begin{displaymath}
\int x_k {\partial (\rho {\bar{ v}}_j) \over \partial t}d^3{...
...}d^3{\bf x}- \int \rho x_k{\partial \Phi
\over x_j} d^3{\bf x}
\end{displaymath} (13)

右辺の最初の項は、例によって発散定理を使って書き直せる。
\begin{displaymath}
\int x_k {\partial (\rho \overline{v_iv_j}) \over x_i}d^3{\b...
... \int \delta_{ki} \rho \overline{v_iv_j} d^3{\bf x}= -2 K_{kj}
\end{displaymath} (14)

これは、運動エネルギテンソル $\boldmath {K}$の定義を与える。ついでに第 二項はポテンシャルエネルギーテンソル $\boldmath {W}$と呼ばれるものであ る。

さらに、 $\boldmath {\sigma}^2$の定義を使って、

\begin{displaymath}
K_{jk} = T_{jk} + {1 \over 2} \Pi_{jk}
\end{displaymath} (15)

但し
\begin{displaymath}
T_{jk} = {1 \over 2} \int \rho {\bar{ v}}_j {\bar{ v}}_k d^3...
... x}, \quad
\Pi_{jk} = \int \rho \sigma_{jk}^2d^3{\bf x}, \quad
\end{displaymath} (16)

さらに、 $j,k$ についての式と $k,j$についての式を足してやると


\begin{displaymath}
{1 \over 2} {d \over dt} \int \rho (x_k {\bar{ v}}_j + x_j {\bar{ v}}_k) d^3{\bf x}
= 2T_{jk} + \Pi_{jk} + W_{jk}
\end{displaymath} (17)

さらに、慣性モーメントテンソル
\begin{displaymath}
I_{jk} = \int \rho x_j x_k d^3{\bf x}
\end{displaymath} (18)

を導入して、連続の式とか発散定理とかを使うと
\begin{displaymath}
{dI_{jk} \over dt} = \int \rho (x_k {\bar{ v}}_j + x_j {\bar{ v}}_k) d^3{\bf x}
\end{displaymath} (19)

で、結局
\begin{displaymath}
{1 \over 2} {d^2 I_{jk} \over dt^2} = 2T_{jk} + \Pi_{jk} + W_{jk}
\end{displaymath} (20)

これをテンサービリアル定理という。

さて、今定常状態 ($I$の時間微分が0)を考え、さらに上の式のトレースを とってみると、$T$, $\Pi$ の定義からこれらの寄与は全運動エネルギー$K$の 2倍になる。$W$の方は、$\Phi$の定義を使えば

\begin{displaymath}
W = \int \rho \sum_k x_k {\partial \Phi \over \partial x_k} ...
...k') \over \vert{\bf x}-
{\bf x}'\vert^3}d^3{\bf x}d^3{\bf x}'
\end{displaymath} (21)

ここで ${\bf x}$${\bf x}'$を入れ換えた積分を書き、両方を足すと


\begin{displaymath}
W = {1\over 2} \int \int \rho({\bf x})\rho({\bf x}') \sum_k ...
... d^3{\bf x}d^3{\bf x}' = {1 \over 2} \int \rho \Phi d^3{\bf x}
\end{displaymath} (22)

というわけで、 $W$は系の全ポテンシャルエネルギーである。結局、
\begin{displaymath}
2K + W = 0
\end{displaymath} (23)

が成り立つ。これを、スカラービリアル定理、または単にビリアル定理という。

今、系の全エネルギーを Eとすれば、 $E=K+W$であるから、

\begin{displaymath}
E = -K = W/2
\end{displaymath} (24)

ということになる。つまり、定常状態にある自己重力恒星系では、必ず全エネルギーは ポテンシャルエネルギーのちょうど半分であり、絶対値が運動エネルギーに等 しい。これは球対称とかそういう仮定なしに常に正しい。


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Jun Makino 平成20年6月11日