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3 非等方モデル、ビリアル定理

ここまでは、等温モデルの変形で、有限質量としたキングモデルと、それ から多成分系の例として球対称等温な恒星系の中での等温ガスの分布を扱った。 以下では、非等方モデルの簡単な例をあげ、それからモデルを離れて恒星系の平 衡状態の一般的な性質について考える。

3.1 非等方モデル

非等方ということは、分布関数が $f(E,L)$の形で書けるということである。 まず、密度 $\rho $がどう書けるかを考えてみよう。一般の分布関数で、密度 は単に $f$を速度空間全体で積分したもの

\begin{displaymath}
\rho = \int f({\cal E}, L)d^3{\bf v}
\end{displaymath} (31)

である。速度を極座標$(v,\eta,\psi)$を使って
\begin{displaymath}
v_r = v\cos\eta, \quad v_{\theta} = v\sin\eta\cos\psi,
\quad v_{\phi} = v\sin\eta\sin\psi
\end{displaymath} (32)

とすれば、角運動量の定義から
\begin{displaymath}
\rho = 2\pi \int_0^{\pi}\sin \eta d\eta \int_0^{\infty}f(\Psi-v^2/2, \vert rv\sin\eta\vert)v^2dv
\end{displaymath} (33)

となる。

3.2 Osipkov-Merritt モデル

一般に $f$$L$に依存するしかたというのは無限にあるわけだが、以下、 そのなかで割と扱いやすいものとして、分布関数が

\begin{displaymath}
Q = {\cal E}- {L^2 \over 2r_a^2} = \Psi - {1 \over 2}v^2
\left(1 + {r^2 \over r_a^2} \sin^2 \eta\right)
\end{displaymath} (34)

の関数として書ける場合というのを考えてみるこれは Osipkov-Merritt モデ ルと呼ばれるものである。この時、上の密度の速度空間における積分を $Q$で かきかえると
\begin{displaymath}
\rho = 2\pi \int_0^{\pi}\sin \eta d\eta \int_0^{\Psi}f(Q)
{ \sqrt{2(\Psi - Q)} \over [1 + (r/r_a)^2\sin^2\eta]^{3/2}}dQ
\end{displaymath} (35)

となる。($Q\le 0$ なら $f(Q)=0$とした)ここで、とても素晴らしいことに
\begin{displaymath}
\int_0^{\pi}{\sin \eta d\eta \over [1 + (r/r_a)^2\sin^2\eta]^{3/2}}
= {2 \over 1 + (r/r_a)^2}
\end{displaymath} (36)

となるので、上の積分は
\begin{displaymath}
\left(1 + {r^2 \over r_a^2}\right)\rho(r) = 4\pi
\int_0^{\Psi}f(Q)\sqrt{2(\Psi-Q)}dQ
\end{displaymath} (37)

という具合になって、これは実は$f(E)$の時の式
\begin{displaymath}
\rho(r) =4\pi\int_0^\Psi f({{\cal E}})\sqrt{2(\Psi - {{\cal E}})} d{\cal E}.
\end{displaymath} (38)

と非常に良く似た形になり、$f$を与えれば$\rho $を求めることができる。

3.3 $\rho $ から $f$ へ(等方)

非等方分布などを実際に、例えば観測データの説明として使うためには、与え られた密度に対して、それを実現するような分布関数を作るという作業が必要 になる。これを、まず $f(E)$の場合についてやってみて、Osipkov-Merritt モデルの場合にも応用してみる。

38 で、密度が至るところ正ならば $\Psi$$r$の単調な 関数なので、 $\rho $$\Psi$の関数と思って、両辺を $\Psi$で微分すれば

\begin{displaymath}
{1 \over \sqrt{8}\pi }{d\rho \over d \Psi}
= \int_0^{\Psi}{f({\cal E})d {\cal E}\over \sqrt{\Psi - {\cal E}}}
\end{displaymath} (39)

これは Abel の積分方程式になっていて、以下の解を持つ
\begin{displaymath}
f({\cal E}) = {1 \over \sqrt{8}\pi^2} {d \over d{\cal E}} \i...
...al E}}
{d\rho \over d\Psi} {d\Psi \over \sqrt{{\cal E}- \Psi}}
\end{displaymath} (40)

ちょっと書き替えれば
\begin{displaymath}
f({\cal E}) = {1 \over \sqrt{8}\pi^2} \left[\int_0^{{\cal E}...
...qrt{{\cal E}}}\left({d\rho \over
d\Psi}\right)_{\Psi=0}\right]
\end{displaymath} (41)

例として、Jaffe model

\begin{displaymath}
\rho = {r_J^4 \over r^2 (r+r_J)^2}, \quad
\Psi = -\ln\left({r \over r + r_J}\right)
\end{displaymath} (42)

を考えてみる。 Hernquist model でも同様に出来るけど、こっちの方が式が 簡単なので。まず、 $r$$\Psi$で表してそれを $\rho $の式に入れると、
\begin{displaymath}
\rho = (e^{\Psi/2} - e^{-\Psi/2})^4
\end{displaymath} (43)

これを式41に入れればいいわけだが、 $x = \sqrt{{\cal E}-
\Psi}$(ただし、 ${\cal E}= -Er_j/GM$)を積分変数にすれば、
\begin{displaymath}
f(E) = {M \over 2\pi^3(GMr_J){3/2}}\left[F_-(\sqrt{2{\cal E}...
...- \sqrt{2} F_+(\sqrt{{\cal E}})
+ F_+(\sqrt{2{\cal E}})\right]
\end{displaymath} (44)

但し、

\begin{displaymath}
F_{\pm} = e^{\mp x^2}\int_0^x e^{\pm x'^2} dx'
\end{displaymath} (45)

3.4 $\rho $ から $f$ へ(Osipkov-Merritt)

さて、ちょっと疲れて来たかも知れないが、式37と式 38が左辺に $1 + (r/r_a)^2$がつく以外は同じ形をしてい たということを思い出して欲しい。式41は式 38の解であったわけなので、今

\begin{displaymath}
\rho_Q = \left(1 + {r^2 \over r_a^2}\right)\rho
\end{displaymath} (46)

と置いてやれば式41と全く同じ形、つまり
\begin{displaymath}
f(Q) = {1 \over \sqrt{8}\pi^2} \left[\int_0^{Q}
{d^2\rho_Q \...
...er \sqrt{Q}}\left({d\rho_Q \over
d\Psi}\right)_{\Psi=0}\right]
\end{displaymath} (47)

の解があることになる。例えば Jaffe model であれば、前節と同様にして分 布関数を今度は $Q$の関数として求めることができる。

最後に、Osipkov-Merritt モデルの性質について少し考えてみる。分布関数が $Q = {\cal E}- L^2/(2r_a^2) = \Phi_0 -(E + L^2/(2r_a^2))$ によるという ことは、$f(E,L)$の等高線が放物線になっているということである。中心近く では、どうぜ $L$ の取り得る値の範囲が狭いので、実は等方的な場合とあま り変わらない。これに対し、外側の $E=0$に近いところでは、等方の場合から 大きくずれる。

ずれ方は、通常の $f$$E$の減少関数なので、 $L^2$ についてもそうなり、 外側にいくほどcircular に近い軌道が減り、radial に近い軌道を持つ粒子が 相対的に増えることになる。

このような傾向は、例えば楕円銀河などの形成過程についてのいろいろなシナ リオで自然に起きること(そのうちに扱う)であり、理論的に調べられている 非等方モデルは大抵上のような角運動量でカットオフを持つようなモデルになっ ている。

なお、非等方性の重要な観測的応用として、楕円銀河の中心部の構造のモデル があるが、これについては後で時間があれば触れることにしたい。


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Jun Makino 平成21年5月10日