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3 Dynamical Friction

さて、ここで少し違った状況を考えてみる。今、温度0(だと、本当はジーン ズ不安定が起きるわけだがこれはとりあえず考えない、すなわち自己重力は無 視する)の、無限に一様な物質分布の中を、適当な大きさを持った球対称なポ テンシャルの摂動(質点によるものでもOK)が動いているとしよう。

座標系はこの質点の運動の方向を対称軸にとった円筒座標で考えていい。この 時、バックグラウンドの物質がどう動くかを考えると、質点の方に固定した座 標系では図のようになる。つまり、平行に入ってきたものが散乱されるだけで ある。

ここで、しかし、もともとの止まっていた物質分布に固定された座標系で考え ると、散乱されたものは、左向きと中心向きの速度をもらうことになり、ネッ トに加速されている。つまり、エネルギーをもらっているのである。

9cm \epsffile{onebodyb.eps}

回りがネットにエネルギーをもらっているので、動いている質点のほうは減速 されなければならない。これが dynamical friction と呼ばれるものである。 この効果は、別に動いているものが単純な質点のポテンシャルとかでなくても、 3次元空間のなかで有界なものが動いていれば常に働くということに注意して ほしい。

すなわち、一方向に進む平面波というようなものを考えるとネットにエネルギー のやりとりは出来ないことになるが、孤立波とか非周期的な摂動とかを考える とちゃんとそれが非線形なダンピングを受けることになる。

もうちょっと別な例としては、サイクロトロン加速をあげることができる。こ の場合、加速される粒子はエネルギーをもらっても周期が変わらないため、電 場を周期的に掛けることで(非相対論的な範囲で)加速を続けることができる。

このように、摂動と回りの相互作用を考えれば、実際にエネルギー交換がおき てそれが摂動のエネルギーを回りに伝えるということ自体は起こり得る。

ただし、この場合でも、やはりエントロピー生成はないということは依然とし て注意が必要である。 Dynamical Friction の例では、質点の運動エネルギー (これはエントロピーを持たない)が回りの粒子の運動に変換されたわけだが、 回りの粒子の運動は依然としてシステマティックなものでありランダム成分を 持たないので、エントロピーは生成されていないのである。



Jun Makino 平成21年5月31日