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5 今後の方向

最後に今後の研 究の方向をまとめることにしよう。

いうまでもないことであるが、我々のシナリオは大質量ブラックホールの形成 過程についての決定的なシナリオを与えるというよりは、これからの研究プロ グラムのベースとなる一つの作業仮説を与えるものにすぎない。

観測的な研究としては、同様なものをほかの銀河でも探すというのがまず第一 に重要なことであろう。理論モデルの検証という観点からは、親星団がどんな ものかということが重要である。現在のところ空間構造や速度分散などの力学 的な情報がほとんどないので合体不安定が本当に起きるかどうかはよくわから ない。これらは大気のゆらぎをリアルタイムに補正して分解能をあげる補償光 学を使った赤外領域での観測で大きな進展があると期待できる。

究極的には、やはりブラックホールがどのように成長するか自体の観測が欲し い。これがもっとも決定的に成長シナリオを制限することになるであろう。我々 のシナリオでは、$10^3$から $10^5$ ${\rm M_{\odot }}$程度のブラックホール同士の合 体が銀河一つあたり数十回と非常に頻繁に起きる。これは、宇宙全体では大雑 把にいって週に1回程度の頻度になる。この時の重力波が観測でき れば、どのようにブラックホールが成長しているかについてのかなり決定的な 情報が得られることになる。

重力波天文学の現状については坪野による詳しい解説[14]がある。 TAMA 300などの地上の重力波観測装置では中間質量ブラックホール同士の合体 からでるような重力波を観測するのは難しい。これは、10Hz 程度以下の低周 波については地上の観測装置では地面振動の影響を抑えるのが困難になるため である。惑星間空間に光干渉計を打ち上げる LISA 計画では、赤方変移 $z$ が 5 程度 でも中間質量ブラックホール同士の合体が容易に検出できることになっており、 我々のシナリオが正しいとすれば膨大な数のイベントが見つかるはずである。

理論的には、上のシナリオで概観した個々のプロセスのより精密なシミュレー ション等による研究が重要になろう。物理としてよくわかっていないのは合体 で大質量星ができたとしてそのあとその星がどう進化するかと、ブラックホー ルと普通の星の合体ではなにが起きるかというあたりになる。もちろん、その あたりをパラメータにした $N$ 体計算で、不確定性が結果にどの程度影響するかを押さえることも重要である。

というわけでこれからするべきことが山積みであるが、これはいいかえればブ ラックホール形成過程の研究がいままさにエキサイティングな時代を迎えつつ あるということであり、このことだけは我々のシナリオが正しいかどうかと無 関係にまちがいない。 観測的には X 線から電波までの幅広い共同 作業が重要であり、長期的にはもちろん重力波も視野に入ってくる。理論に おいても数値相対論から恒星進化、恒星系力学、銀河形成までの広い範囲の共 同研究がこれから重要になってくる。現在までの進展では、日本の、特に観測の 研究グループが大きな役割を果たしてきた。今後も戦略的に研究を進め、世界 をリードしていくことを期待したい。



Jun Makino
平成14年6月13日