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7 いくつかの話題

7.1 多体問題専用計算機との関係

筆者らのグループでは、粒子間相互作用を計算することだけに特化した計算機 を開発し、実際に天文学の研究に使っている [15,16]。FMMやツリー法のような速い方法 があるのに、こういった計算機を作ることに意味があるのだろうか。

我々が専用計算機というアプローチをとる理由は2つである。一つは、粒子毎 にタイムスケールが大きく違うような問題では、ツリー法や FMM を使うのは 非常に難しい、特に並列計算機で使えるような実現法はまだ存在しないという ことである。

もうひとつの理由は、ツリー法や FMM も、実は直接計算の部分を高速化する だけでかなり速くなるということである。5.2節で述べた ように、多重極展開の計算量と直接計算の計算量の間にはトレードオフが働く。 このために、粒子間相互作用の計算が例えば 100倍高速になれば、セルのなか の粒子数を10倍にすることで計算全体を 10 倍速くすることができる。つまり、 粒子間相互作用の計算速度の平方根に比例して計算速度が改善される。ツリー 法でも事情はほぼおなじであり、実際に10-30倍程度の加速が実現されている [14]。

7.2 計算精度に対する要求について

実用的にも理論的にも大きな問題である、「計算精度をどう評価す るか」ということについて簡単に触れておきたい。

FMM についての論文では、適当な粒子分布を与えてポテンシャルや加速度を 計算し、その最大値とか平均値を使って評価する。しかし、時間発展を追う問 題として考える時には、最終的に小さくしたいのは積分して求まった各粒子の 軌道の誤差である。

もちろん、軌道は加速度を積分してもとまるのだから、加速度の誤差が小さけ れば軌道の誤差は小さい。しかし、軌道の誤差には加速度の誤差の時間相関が 効いてくる。つまり、仮に誤差が大きくても、タイムステップ毎にランダムに 変わるのであれば、小さくてもいつも同じ方向に働くのに比べて積分した誤差 は小さくなるかもしれないわけである。

例えば、系の中を粒子がランダムに動き回っているような場合であれば、近く の粒子からの力の誤差の相関時間は短く、遠くからのは長いであろう。逆に、 粒子がほとんど止まっていれば、すべての誤差の時間相関が長い。実際の精度 評価は、このような対象系の特性を考えに入れて行なう必要がある。ある瞬間 での力の誤差を最小にするような方法がもっともよいとは限らないのである。



Jun Makino
Tue Sep 1 21:46:06 JST 1998