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1 専用計算機とは

ここでは、専用計算機によるシミュレーションというものの考え方について簡 単にまとめる。我々のグループでつくってきた専用計算機のより詳しい解説に は杉本が、また、最新の成果については牧野・泰地がある。

1940年代に電子計算機が登場して以来、ほとんどの大規模シミュレーションは 「汎用」計算機で行なわれてきた。汎用計算機というのは、要するに演算回路 とメモリをつなぎ、指定した順序で指定した演算ができるような制御回路をつ けたものと考えることができる。(図1)これは1940年代から今に至るまで基 本的には変わっていない。

 
図 1: 汎用計算機の概念図

これに対し、「専用計算機」というのは、計算アルゴリズムをある程度まで直 接ハードウェアで実現したものということになろう。

1970年代までは、ハードウェア規模の大きさのために、 問題向けの専用計算機というのは現実的なアイディアではなかった。アルゴリ ズムをハードウェア化するというのは、要するにいくつかの演算器を演算の順 番に従って並べたパイプラインを作るということである。 ところが、1970年代までは汎用計算機でも1クロックに1演算はできていない。こ れは、1クロックに1演算できるようなハードウェアが、当時の技術では現実的 なコストで作れなかったためである。

この状況は、半導体製造技術の発展により大きく変った。過去25年間、半導体 の集積度は3年で4倍というほぼ一定の速度で上がってきた。このために80年代 にはアルゴリズム自体をハードウェア化した専用計算機が可能になった。デル フト工科大学の Bakker らが82年頃に完成させた DMDP と、野辺山宇宙電波観 測所(現在は国立天文台)の近田らが84年に完成させた FX がその例である。

DMDP は分子動力学法の専用計算機であり、相互作用の計算、粒子の位置、速 度の更新、相関関数など結果の計算のそれぞれのために専用のパイプラインを 持つ。演算パイプラインは市販の乗算器(8ビット)などを使って構成された。 計算速度は約150 Mflops 程度であり、当時のベクタプロセッサの理論ピーク 性能と同等であった。

FX は電波干渉計のための相関器であり、その基本的な機能は各アンテナから の信号をリアルタイムでフーリエ変換することである。これは、当時利用可能 になりだした数千ゲート規模のゲートアレイを約5000個使った大規模な機械で あり、100 GOPS 以上という驚異的な演算速度を達成した。これは基本的には ハードウェア・パイプラインによって FFT を行なう専用計算機である。



Jun Makino
Thu Jun 4 17:44:07 JST 1998