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1. 今何をするか(1)(2011/8/21書きかけ)

というわけで、何ができるか、何をするべきか、という話を少し考えてみます。 非常に大雑把にいって、これは次の2つに分けることができるように思います。

  1. 福島の事故ででてしまった放射性物質への対応
  2. 今後同様な事故を起こさないようにするためにすること

この項ではまず、福島の事故ででてしまった放射性物質への対応について考え てみます。ここでの視点は、普通の人はどうするか、という話で、国とか東電 がどうするべきか、という話ではありません。これは、こうするべき、といっ たところでそうする可能性があるわけでもないのであまり意味がないからです。

1.1. 福島の事故ででてしまった放射性物質への対応

これは要するに、主に3月にばらまかれて、現在我々の周りにあり放置しておく と 20年で半分くらいにしかならない放射性物質をどうするか、という話です。

もちろん、これから出るものを多少は抑える、ということもそれなりに重要で すが、海や近くの地下水にでるものを別にして、東北や関東の土壌汚染に話を 限るならそれが現在のさらに倍になったり、ということはそれほど可能性が高 いことではなくなったと思います。

ここ のまとめでは、現在原発建屋にある汚染水は大体10万トン、1立方センチあたり 100万ベクレルということになっています。つまり、1トンあたりテラベクレル、 総量 10万テラベクレルです。大気中にでたセシウムは2万テラベクレル以下と されているので、現在でもその数倍が汚染水中にあるわけです。浄化 装置が動く前には1立方センチあたり400万ベクレルという数字もあるので当初 は20倍以上のセシウムが汚染水中にあったことになります。これらが何かの事 故でまきちらされるとまだ大変なことになりえますが、そういうことは ないと、、、まあ、期待しましょう。

以下では、外部被曝と内部被曝にわけて考え方を簡単にまとめてみます。

1.2. 外部被曝

空間線量として例えば東京の私の自宅あたりで 0.1uSv/h、関東ではホットスポッ トと言われる柏市あたりで0.3-0.5、福島市では高いところでは 3 くらい、飯 舘村とかでは 10近く、という数字になっています。現在のところこの半分 から 2/3 が Cs-134 の寄与、残りが Cs-137 です。 134 の半減期は2年なの で、2年語には今の 2/3から 3/4 に、さらに2年後には 1/2 から 5/8 程度 に下がることになります。まあその、要するに今後数年たいして下がらない、 ということです。

もちろん、コンクリートやアスファルトの表面にへばりついているものは雨や 清掃で流れて減少することが期待できますが、土壌や草地、田畑はあまり変わ りません。また、コンクリートやアスファルト上のものはホコリになって空中 に再飛散したり、雨と一緒に流れて側溝の泥にたまったり、さらには下水汚泥 に濃縮されたりしているわけです。

外部被曝については IAEA や ICRP の主張が桁で過小評価ということも なさそうであると思うことにすると、まあ、 人口放射線で 1mSv/年くらい、 つまり、自然放射線が 0.03-0.04uSv/h くらいだとすると 0.15uSv/h くらい までは下げることにしたい、それでも30年間たつとではガンで死ぬ確率が 0.1 パーセントくらいは増えるかも、というところ(1Sv で 5% とすると、その 1/30 は 0.17パーセント)です。

まあ、これは要するに私は自宅をどこか西の方に移動したりする予定は今のと ころない、ということです。但し、これは家族に小さな子供がいるとかこれか ら子供ができるとかそういうことがないからではあります。

いずれにして 0.15 uSv/h 以下なら放置でよいというわけではなく、低いにこ したことはないわけですが、0.15 uSv/h より高いところでは少なくともその程 度まで可能な限り早く減らす(いわゆる除染)か、引っ越すか、ということでしょう。

除染の実際については、南相馬市の放射性物質の除染に関する情報が現在のところ 最も実際的で有用と思います。これはみてわかるように「市」の取り組みで、 県でも国でもありません。

国が対策をするべきとか東電が費用を負担するべきとかの主張はもちろん正当 なものではありますが、そういうことをいっている間に被曝するのは自分 や家族であるわけですし、その被曝によって受ける被害は仮に補償金やら なにやらを貰うことができたとして(そんなことはありそうにないと 思いますが、仮に、です)お金で元に戻るものではありません。

なので、自分の家の周り、子供がいるならその通う学校、といったところは 自分で(自治会とかPTAといったレベルで)除染することは考えるべきと思いま す。

南相馬市のマニュアルに載っている例を見るとわかるように、雨樋の 下、滑り台の下、といった雨水がたまるところではそれ以外のところに比べる と線量率が数倍になることが珍しくありません。これは、平均的な線量率が 0.1 uSv/h 以下のところでも局所的には 1 程度までいっている場所もありえ る、ということです。

なお、南相馬市の文書では、当面の目標を放射線量の半減としています。 これはそれ以上減らすことはそれほど簡単ではないという判断があるからでしょ う。つまり、南相馬市の多くの場所のように線量率がせいぜい0.3 程度 のところは除染で年間 1mSv の目標を達成できるのですが、0.5 以上の ところでは困難、ということです。そういうところでは、

といった選択肢がありえると思います。いずれにしても、国がなんとかしてく れるのを待っていても時間がたつだけである、ということは理解して おいたほうがよいと思います。何度か書いたことの繰り返しになりますが、 今回の原発事故以降の国の対応は全くお話にならないものです。

問題は沢山ありますが、結果的にみて最大のものは放出された放射性物質がど こにどう降るか、それはどれくらい危険か、について適切な情報を全くださな かった(降ったあとでは、福島県内とかの詳しい測定値自体は公開していました がが、報道では各県一ヶ所の値程度しかでていなかった)ことです。これは 現在もまだその状況は大きくは変わってなくて、色々な人の測定を nnistar さんがまとめたマップや、それをベースに群馬大学の早川さん が書いた地図によって初めて汚染の全体像が明らかになったわけです。

柏のホットスポットについては、全くの偶然で東大柏キャンパスと日本がんセ ンターの測定値があったので比較的早くにその存在が明らかになりましたが、 それ以外の場所については公的機関による測定は後追いになりました。 また、柏の値については東大の発表は何故か値が高い場所のは消えるとか、 全く事実に反する、元々高かった、という記載があるとかのデタラメ なものであったことも記憶されるべきでしょう。

つまり、あなたの家がどれほど汚染されているか、は、あなたが自分で測定す る他に知るすべはないのです。

1.3. 内部被曝

内部被曝については、現在の主要な問題は(空間線量率があまり高くなく、 身の回りに莫大な放射性物質があるわけではないところでは)主に食物 からの摂取になっています。

一応、現在、つまり事故以降の日本での食品の基準値は Cs-137 で 500Bq/kg (Cs-134 との合計?)となっています。これは全然問題ない値である、という のが国側の主張で、その根拠はいわゆる換算係数というやつです。IAEA の文 書では Cs-137 1Bq を摂取することによる内部被曝は(成人の場合) 1.3E-8Sv となっています。なので、あらゆるものが500Bq/kg に汚染されていて、それ を例えば1日3kg (ちょっと多すぎ?)食べるとして1年で 5.5E5Bq = 7mSv だ、というわけです。あれ、上の外部被曝ででてきた 1mSv より随分多いですね。これに言い訳するなら

というような話ですが、仮に IAEA の換算係数を信じるとしても、外部被曝の 目標を 1mSv/年にするなら、食べるものは平均的には 500Bq/kg では駄目で 50Bq/kg 程度にしたいわけです。IAEA/ICRP は単純に信用していいかどうかわ からないので内部被曝の影響はもうちょっと大きいかもしれない、と思うなら、 例えば1桁下げて 5Bq/kg を目標に、ということになります。

まず第一の問題は、 5Bq/kg かどうかを知るすべはあるのか、ということ になります。国の基準が 500Bq/kg である以上、少なくともそこまでの ものは普通に流通しています。500Bq/kg のものが食べているものの 1/100 で もあれば、他のものの汚染がゼロでも平均としては5Bq/kg になってしまう わけですから、国の基準を通っているから安全、といった考え方では いけないのは明らかです。

そうすると、個人としてできる対策は、

といったところではないかと思います。残念ながら、現在のところ10万円程度 のガイガーカウンターやシンチレーションサーベイメーターでは100Bq/kg と いったものでも測定は困難ですから、買ったものを自分で測る、というのは まだ現実的ではありません。但し、10万円程度の価格でスペクトルをとって 核種分析ができる機械も開発中のようであり、そうなると買ってきたものを 自分で測ることができるようになるかもしれません。

汚染が高そうな産地のものは避ける、というのは風評被害を広げる もので福島等の復興を妨げることである、というようなことを いう人もいますが、しかし復興のためにするべきことは 安全な食品を出荷できるようにすることでしょう。恣意的に あげた国の暫定基準値にはいってるから買って食べるべきである というような話ではありません。
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