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20. アンケート (2012/4/19)

廃棄物工学研究所というところが以下の アナウンス をしています。短いので全文引用します。

  週刊金曜日2012.4.13(891号)の記事について

  2012年04月17日

  平成24年4月13日付け、週刊金曜日におきまして「がれき受け入れ」導くアン
  ケート調査の裏側 「環境省・部会長が経営する会社が実施」というタイト
  ルで書かれた内容は事実と異なり誤解を招くおそれのある内容が報じられて
  おります。事実関係は以下の通りです。

  本研究は岡山大学などとの共同研究として行ったもので、ウラン鉱山および
  産業廃棄物に関する情報提供時のリスク意識の変化、違いについて調査・解
  析し、情報に対する理解・受容向上に向けた適切な手法の確立を目的とする
  ものであります。昨年12月に実施しましたアンケート調査では、昨年3月に発
  生した東日本大震災によって発生した災害廃棄物の広域処理についても実施
  しましたが、この目的は環境問題の正確な情報を市民と共有する手法開発の
  ためであり、がれき受け入れを導くために行ったものではありません。

  弊社はこの共同研究に関連した業務を日本原子力研究開発機構から受託して
  実施致しましたが、業務委託は公開公募の形で公平・公正な立場で行われて
  おります。

  以上

  平成24年4月17日
  株式会社廃棄物工学研究所
問題の記事には私のコメントがでていますので、その部分を引用しておきます。

  「用紙に委託元の原研の記載がなく、目的が『環境問題の正確な情報を市民
  の皆さんと共有する手法の開発』となっている。市民の意見を求めるという
  通常のアンケートの趣旨とまったく違う」と指摘する。 

  さらに、「多くは高齢の男性が名前を掲載している電話帳から回答者を選ぶ
  のは、そもそも社会調査の基本に反する。議論が分かれる『99.99%以上捕
  集』等の表現を、『正確な情報』と称し、一方的に伝えるものになっている」
  と述べる。
問題のアンケートの目的は、実施者である廃棄物工学研究所のコメントによる なら「環境問題の正確な情報を市民と共有する手法開発」である、となってい て、これは私のコメントと同じです。「市民の意見を求めるという通常のアン ケートの趣旨とまったく違う」というところについても特に見解の相違がある わけではないようにみえます。

一方、新聞では、このアンケートの結果について

  震災がれき「受け入れ賛成」87% 原子力機構など岡山県南で調査

  日本原子力研究開発機構人形峠環境技術センター(鏡野町)などは15日まで
  に、東日本大震災で発生したがれき受け入れについて県南部で行ったアンケー
  トの結果をまとめた。消極的意見も含め賛成が8割を超えた一方、7割がが
  れき中の放射性物質への懸念を表明。安全への根強い不安が浮かんだ。 

  核燃料のウラン濃縮を終えた同センターは設備の廃止を進めており、震災後
  の県民の核廃棄物に対する意識把握へ調査を実施。廃棄物問題の研究など行
  う岡山大発のベンチャー・廃棄物工学研究所(岡山市北区津島中)に委託し
  昨年12月、廃棄物に関する約50項目について岡山、倉敷市内の千人に郵送で
  質問、530人が回答した。 

  (以下略)
といった報道がされています。この報道では人形峠環境技術センターがアンケー トを行った目的は意識把握のためとなっており、委託をうけた廃棄物工学研究 所の主張とはずれがあるようにみえます。

では委託研究の 実施計画書 はどうだったかと見てみると、

  ・情報提供におけるリスク意識等調査 

    機構が提示する産業廃棄物およびウラン鉱山跡措置のリスク認知、 信頼に
    関するアンケート調査票を岡山県下住民へ発送・回収、結果 の集計、統計、
    リスク認知構造解析等を行い、情報提供の効果および両情報提供について
    の比較を行う。アンケート調査は 2,000 件の 郵送・回収を行う。

  ・情報提供における課題の抽出 

    上記意識調査結果と機構が提示する昨年度以前に実施した同アンケート調
    査結果との比較検討を行う。  
となっており、これは廃棄物工学研究所の主張の通り、情報提供の効果につい ての調査である、ということになります。もちろん、途中で研究の実施計画に 変更があった可能性もあります。が、これは廃棄物工学研究所の主張の通りのも ので、報道までのどこかで理解にずれが発生したと解釈するのが適切であるよ うに思います。つまり、

  震災がれき「受け入れ賛成」87% 原子力機構など岡山県南で調査
というのは調査からいえることではないということになるようです。どこでず れが生じたのかはわからないわけですが、こういう発表についてはする側もそ れを報道する側も注意深くあって欲しいものです。

とかいってもそんなことが期待できるはずがないわけで、発表、報道の背景、 意味には受け取る側も十分注意しないといけない、という話です。が、こんな ふうに調査の趣旨からはいえるはずのないことが発表ないしは報道されてしまっ ているのは、その原因はなんであれ、結果としては悪質なケースになっていま す。研究・発表に関する倫理感が通常のものとは若干のずれを起こしているよ うにも見えます。

このアンケートには 池田こみち氏による詳細な批判 があり、アンケート本体もみることができます。 このアンケート自体がこれまで原研と廃棄物工学研究所が行ってきた 「環境問題の正確な情報を市民と共有する手法」の研究の応用であり、 目的は「環境問題の正確な情報を市民と共有する手法」の一層の改良であるわ けです。

「環境問題の正確な情報」を市民に伝えることはそれが正確な情報であるのだ からなんの問題もない。市民がその情報を得たあとでの意識を調査することも 適切である、という主張は不可能ではないかもしれませんが、例えば「宇宙の 年齢は137億年です」と説明しておいて「宇宙の年齢は100億年より長いと思い ますか」という質問をして 87% がはいと答えたとしても、それは国民の宇宙 に関する知識の程度を表すものではないでしょう。

これと同様に、「広域処理は必要である」という説明をしておいて、「広域処 理は必要ですか」という質問をして 87% がはいと答えたとしても、それは国民 の広域処理に対する理解を表すものではないわけです。
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