21. 「現実的な代替案」 (2012/7/16)
国家戦略室というところが様々な発電方式の
発電コスト比較
をしています。この資料には、
「事故の損害額が1兆円増える毎に 0.1円増」と書いてあります。これ単位は
kWh あたりです。なので、10兆kwh 発電すると事故が起こる、と計算していることになります。
100万kW の原発は大体年間 100億kWh 発電します。なので、1000炉年程度で事
故起こるのをいれました、という計算です。50基原発あると20年に一度ですか
ら、これから20年で原発段階的に廃止だと 50% くらいの確率で次の事故が起こ
るというのが国家戦略室の考えということになります。
現在「話そう"エネルギーと環境のみらい "」という国家戦略室の広報サイトで2030年の原発依存について 0%,
15%, 20-25%の3つのシナリオというものが紹介されて、なんとなくその3つから
選ばないといけないような気分にさせられるわけですが、これだと 0% をとっ
ても、国家戦略室自体の考えとして50% くらいの確率でもう一度事故が起こるわけです。
15% ではさらに高い 70%くらいの確率で事故が起こり、 20-25 ではもちろん
もっと高くなるわけです。2度以上事故が起こる確率も無視できなくなります。
注意して欲しいことは、この事故の確率の見積もりは私が適当に書いているわ
けではなくて、国家戦略室の発電コスト推定が前提にしているものだ、という
ことです。
「エネルギー・環境に関する選択肢」に対する御意見の募集(パブリックコメント)
というところから政府に意見をいうことができるので、何かしらいっておくと
気休めにはなると思います。
この意見募集の問題は、福島で起きたような事故がかなり高い確率でもう一度
起こるような選択肢しか事前に提供していないことだと私は思います。これか
ら国内の原発が次々に再稼働していくとすると、次に事故が起こる可能性がもっ
とも高いのは、多数の原発が集中している福井県です。そうすると、風向きに
よっては京都・大阪の関西圏、ないしは名古屋を中心とする東海地方に放射性
物質がくることになります。福井から名古屋までは 100km ちょっと、京都までは60km 程
度で、福島第一と中通りの距離とそれほど変わりません。事故が起こった時の
汚染は福島市程度かもしれないし、それより1桁上になるかもしれません。
例えば、京都が福島市の10倍とかいう程度に汚染されてもかまわない、と
いえる人はそれほど多くはないのではないかと思いたいわけですが、
国家戦略室の原発「ゼロシナリオ」はそうなる可能性を残すものです。
もちろん、「ゼロシナリオ」で福井県の原発が事故を起こす確率は
10%程度ですから、京都がひどく汚染される確率はさらに小さく、
2-3%程度かもしれません。しかし、それは無視できるほど小さいとは
とても言えないのではないかと思います。
なので、原発は可能な限り早く全部廃止、というかそもそも再稼働した大飯原
発も早く止めるのがいいのでは、と思うわけですが、そういう話になると、原
発止めるなら現実的な代替案は?とかいってくる人がいます。
この「現実的な代替案」が一体何を意味しているのかは良く分からない、とい
うか、そういうことをいいだす人はあらゆる代替案になにかしら
難癖をつけるわけですが、一応ここで私が少なくとも電力供給に関する限りそ
れなりに現実的な代替案と思うものを以下にまとめておきます。
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原子力発電所自体は即時全廃する
-
発電能力の不足は、当面天然ガス発電所の新設や増強で補う
-
この新設・増強は、電力会社以外の会社も参入できる形で進める
-
超長期的には再生可能エネルギーに移行する
天然ガス発電所のメリットは色々あります。まず、建設費が安いことです。
川崎天然ガス発電所の建設費は 84万キロワットに対して 500億円といわれて
おり、原発の 1/10 以下です。
仮に原発全廃で不足する電力を補うため、 1000万キロワット程度新設したと
しても1兆円以下ですみ、この費用は原発を止めたことによる燃料費の増加といわれてい
る年間2兆円より小さいものです。
次は、燃料費も安いことです。現在は特に夏に原発停止による不足分を旧式の
重油火力で補っています。重油が高く、また旧式の火力は熱効率も40%程度と低
いために、これはかなりの高コストになります。新しい天然ガス火力は60%近い
熱効率を持ち、また天然ガスの熱量当りの価格は重油の 1/2 程度であるため、
発電コストは 1/3 程度です。国家戦略室の見積もりでは天然ガスと原子力発電
はほぼ同じコストとなっていますが、今のところどういうわけか国内の電力会
社は国際水準よりかなり高い値段で天然ガスを買っていて、その値段での見積
もりになっているのであまり適切な比較ではありません。
値段については、建設費もどうも電力会社の持つ天然ガス発電所は妙に高い、
という問題もあります。計算上は発電所の建設や運用を別の会社がするだけで
安くなるわけです。
熱効率が良いことはCO2 発生も少ないことを意味します。もともと天然ガスは
石炭や石油に比べて発熱量当りのCO2 発生量が少ないことと合わせて、温暖化
防止にもそれなりの効果があることになります。
長期的には資源量に限界がある天然ガスを使い続けることはできないの
ではないかという問題はありますが、少なくとも軽水炉のような形態で(高速増
殖炉によるプルトニウムへの変換なしで)ウランを利用するなら、その資源量は
天然ガスや石炭より何桁も少ないわけで、ウランに対しては天然ガスは長期的にも有効な代替になっています。