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10. 指数関数的増加と(片)対数グラフ(2021/6/26)

Figure 10: イスラエルの日毎の新規感染者数。 2021/6/24 まで

10 に、イスラエルでの去年2月から6月24日までの新型コロナウィルス新規感染者の日毎の数のグラフを示します。 データ出典

左側は「片対数」グラフと呼ばれるもので、グラフの縦軸が 「対数」というものになっています。一方、右側が実際の数をそのまま縦軸に とっています。

左側を見ると、2021年6月後半はすごくグラフが急になっていて危ない感じが する一方、右側だとちょっと増えてるだけで大したことがないように見えます。 ここでは、どっちの印象が正しいか、それは何故か、をなるべくやさしく 解説しようと思います。

まず対数とはなにか、ということですが、左側のグラフの目盛りを見るとわか るように、 1, 10, 100, 1000, 10000 と10倍になると1つ目盛りが増えるもの です。算数としては、1の対数が0、10の対数が1、100の対数が2で、あとは順 番に100万の対数なら6、1億なら8、1兆なら12、という具合です。どんなに大きな数でもその対数は計算できます。逆に、 0.1 の対数は -1, 0.01 なら -2、、、とこちらもどんな小さな数でも計算で きます。 0 や負の数に対しては対数は計算できません。

1、10 の対数が 0、1になるとして、じゃあ 2 とか3とかはどうするのか?逆に、 対数が 0.5 になるような数はなにか?ということが気になる人がいると思い ます。前者は少し難しいのでまずは後者から説明します。

答から先にいうと、対数が 0.5 になる数は10の平方根です。10、 100、1000、、、の対数が 1、2、3、、、である、ということを、「もとの数 に10を掛ける」ということが「対数に1を足す」といことに対応する、と言い 換えてみます。そうすると、「対数に 0.5 を足す」のは2回繰り返すと「対数 に1を足す」になるわけです。

なので、「対数に 0.5 を足す」が「元の数になにかを掛ける」にやはり対応 するとすると、そのなにかは2回掛けると10になる数、つまり10の平方根であ る、ということになります。

この議論から、対数が 1/3=0.333... や 1/4=0.25 になる数、一般に n が 1, 2, .... の数、つまり自然数として対数が 1/n になる数は n回掛けると10になる数であればよいことがわかります。これは 10 の n乗根 に対応する対数が 1/nだということです。 さらに、 有理数、つまり m、n がどちらも自然数として分数 m/n で表わ される数が対数になるようなもとの数は 10のn乗根を m回掛けたもの、つまり m乗であることがわかります。例えば、対数が 0.3 になる数は、 10の10乗根 1.2589... の3乗で1.995... となります。

ここまでの議論は、 10の何乗、というもの、つまり10のべき乗を、整数だけでなくて有理数に拡張 した、と考えることもできます。10の 0.31 乗なら、10の100乗根の31乗なわ けです。そうすると、対数は、10のべき乗の「逆関数」つまり、 ある数 y に対して10のy乗を と書くと、ある数x の対数とは

になるyである、ということです。つまり、対数関数を log(x) と書くと、 y=log (x) は上の式を満たすyである、ということです。

では2の対数は?というと、 10の m/n乗がぴったり2になる有理数 m/n は存在 しませんが、無限小数でどこまでも2に近くなるものは存在するので、それが 2の対数だ、ということになります。

このような対数でグラフを書くとどういう良いことがあるか、ということです が、例えば感染者の数が毎日10%づつ増えているとしましょう。 そうすると、これは、ある日の感染者数に対して次の日の感染者数は 1.1 をかけたものである、ということです。そうすると、感染者数の対数を 考えると、ある日の数に対して次の日の数は log(1.1)=0.042 を足したものになる、 ということです。つまり、「10%づつ増える」が、対数で見ると「0.042づつ増 える」になって、単に直線に見えることになります。

新型コロナに限らず、感染症は、基本的に現在感染している人が周りの人を 感染させることで広がっていくので、特に対策がないと、今1日10%増えていた ら明日も明後日も1週間後も1日10%増える、つまり、対数で目盛りをとると 直線で増えていきます。

左側のグラフはそういう、軸が対数のグラフになっていて、 10, 100, 1000 と目盛りが書い てありますが実はこれらは対数で 1, 2, 3 で、対数のままではわかりにくい ので値だけもとの10、100、1000が書いてあるわけです。

左側のグラフでは、イスラエルの感染者数が大きく増えたのは 昨年3月、7月、9月、12月と現在6月後半の5回ですが、1日あたりの 増えかたが急なのは昨年3月と今で、どちらも10日で10倍程度になって いることがわかります。昨年3月にはイスラエルは 3/19 にロックダウン して、急激な増加を抑え込むことに成功しましたが、現在の増加に対しては まだ有効な対策を打ち出せておらず、非常に危険な状況であることがわかりま す。

なお、 1日10%増える、ということは、ある日に n だったとして i 日後の数 は ということで、これを「指数関数的増加」といいます。 数学で指数関数というと で、 は「自然対数の底」と呼ばれる 数で 2.71828... です。何故この形のものを特別に「指数関数」というかとい うと、色々な重要な関係式があるからですが、そのうちの1つは、 の微分は そのものである、ということです。

ここまで、対数は10のx乗の逆関数、としていましたが、これを、任意の数 n のx乗の逆関数として、 と書くことにします。そうすると、 例えば は、 と書き直せることがわかり、 ( とも書きます) さらに一般の の微分が であること、さらに、 線型微分方程式

の解が

であることがわかります。最後の2つの式は、例えば「1日10%増える」は a=0.1 ということで、日付を t とすると で振舞いが あらわされる、ということです。対数にすると で、直 線がでてきます。

つまり、片対数グラフで直線がでてくると、放置しておくとそのまま将来も直 線が続いて、あっというまに10倍とか100倍になりかねない、ということなのです。
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