Previous | ToC | Next |
相変わらず原発の話です。
原子力安全委員会の発表でも放出した放射性元素の量が3-11万テラベクレル、ということで、
やっと INES レベル 6 ないし 7 であることを認めそうになってきました。こ
れは海にいった分を無視した少ない目の見積もりだと思いますが、ようやく、
というところです。
事故から1ヶ月たったところで、色々振り返ってみたいと思います。
大雑把な理解としては、2, 3 号機では炉心溶融が起きて圧力容器、格納容器
ともに破損し、燃料が溶けた(ペレットは生きているかもしれません)ものが格
納容器の底にたまっている状態だと思います。3、4号機ではさらに使用済燃料
プールで火災ないし爆発が起こって建屋を吹き飛ばしていて、燃料棒の破片を
含む色々なものがが建屋の外までもばらまかれている可能性が非常に高いです。
1号機はまだ圧力容器の温度・圧力が高いことになっているので、まだ壊れて
いない可能性があります。但し、圧力と温度のつじつまがあってないので本当
のところは良くわかりません。
このような状態なので、放置すると燃料がどんどん高温になり、色々なものが
蒸発したり火災になったりします。なので、圧力容器・格納容器・建屋に水を
いれて冷やしている、ということになっています。水も十分にいれないと燃料
棒と接触しているところで蒸発して、 I-131 や Cs を一緒に運んでいくので、
沢山いれたいところですがそうすると今度は溢れて海に流れでることになるの
で、それもできない、ということで、結局現在は蒸発が起こる程度の少ない目
の量をいれているようです。
このため、まだずるずる放射性物質の放出は続いているようにみえます。
と、上に書いたことは、色々な人がいっている、 3/15 以降は大きな放出がな
いとか 3/19 以降はないとかいうのと若干違うように見えるかもしれません。
しかし、「大きな」放出、というのを、その時にでた放射性物質の量でいうな
ら、矛盾するわけではありません。当初主に放射線を出していた I-131 は
1ヶ月たった今では量が 1/10 になっていますから、水蒸気を同じだけど出し
てもでる I-131 の量は 1/10 になるからです。さらに、発熱量も3/15 の頃に
比べると 1/3 程度にさがっているはずですから、水蒸気のでる量もこれに
比例する程度には減っています。従って、放射性物質のでる量は
時間当りで 1/30 程度になっているわけです。また、 3/14 とかの最初の爆発
では稀ガスもでていたはずで、これに比べるとさらに量は減ります
(稀ガスは短時間のピークを作るだけで地面にたまりはしませんが)。
但し、半減期の長い Cs-134, 137 は 1/3 程度にしかなっていないわけですか
ら、これらに関しては実はそれほど減っているわけではありません。以下に、
文部科学省測定の茨城県(ひたちなか市)での Cs-137 の降下量を示します。(単
位は Bq/m^2。資料には MBq/km^2 という不思議な単位で書いてありますが、同
じものです)
と 4/10 に書いたのですが、 4/11 にでたデータをみたら本当に多くなってい
ました。 4/9 の分を加算すると 3/23 以降の降下量は 3/21-22 の 10% 程度に
までなります。
97 には以下のように書きました。
そうすると、もちろん水がどこかに溢れだします。放置すると最終的には海に
流れ出すわけなので、そうならないためには溢れた水を建屋とかの中から吸い
だして、どこかにためる、あるいはその水をまた戻すことで冷やす必要がある
わけです。
現在、1時間に10トン程度の水をいれていますが、蒸発しないで冷やすためには
これを5倍か10倍に増やす必要があります。つまり、1日 1000 トン以上、3機合
わせると 3000トン程度にしないといけません。現在、建屋にたまった水をくみ
だしてタンクにためる、とかいう話をしていますが、タンクの容量は1万トン
程度で全く不足であり、ためるなら数十万トン分の何かが必要です。そのまま
ためるよりは、それを戻してまた冷やすか、あるいは蒸発濃縮(静かにやって、
さらにフィルタもつければ放射性物質が蒸気とともにでていくのはかなり防ぐ
ことができます)して体積を減らしたものを保存するようにする必要があります。
後者の場合、建屋等にたまった放射性物質自体を外に出すことができるので、
今後の処理も楽になるかもしれません。といっても年単位で先の話とは思いま
す。
基本的な理由は、東京電力・政府機関が、現実を適切に認識できていないから
ではないかと思います。原子力発電については、普通の意味での科学的事実と、
電力会社や政府機関の公式の主張の間に大きなずれがある状態が過去数十年続
いています。
というと、それは反原発を主張する人の政治的な主張で客観的事実ではないの
ではと思う人がいるかとと思いますが、別にこれは原子力発電に限ったことで
はなく、私の良く知っているところでは次世代スパコンの話(この文書の元々の
主題ですが)でも、同じようなメーカー、政府機関の認識の実態からの乖離が起
こっています。
行政組織の中では、そのような現実からの乖離が起こるのはそれほど不思議な
ことでも珍しいことでもありません。というのは、形式的には、有識者からな
る諮問委員会等が客観的・科学的な立場から政策について意見を出す、という
ことになっているのですが、その委員会のメンバーを決めるのが行政側だから
です。このため、行政側の官僚が望む方向の答申を出す委員が選ばれる、ある
いはそれ以前に委員会の議論と無関係に官僚が作文したものが何故か答申にな
る、といったことが起こります。スパコンについては、2009年の NEC 撤退の直
前にあった委員会はそれまでと大きく違うメンバーで構成されていて、何か今
までとは違う結論をだしたかったんだな、ということがわかるようになってい
ます。この意味では、ある程度現実に対応したわけですが、十分な対応ではな
かったと私は考えています。
官僚はどういう人か、というと、エリートな人は 2-3年で色々な部署を
回るわけですから、逆にいうと極めて能力があって優秀ではあるけれどほとん
ど経験も知識もない素人が施策を決めるわけです。そうすると、自分が担当で
あるうちに現在の方針を変更しよう、という判断はなされません。上のスパコ
ンのケースも実際にそうで、かなり色々破綻したのに中止はしないという答申
がでるような委員会を構成し、そのように進めたわけです。
そういう、 go, no-go の判断は政治家の仕事なわけですが、過去20年間の政治
家はエネルギー政策について官僚からでてくること以上の独自の判断で政策を
進めてきたようには見えないです。
そもそも、原子力発電を始める、というのは政治的判断によっていて、
もしも事故がおきたら電力会社には補償を負担しきれないほどの被害がでる、
とわかっていたので
原子力損害賠償法
というものを作って、実効的に電力会社の責任を免除することで
商業的な原子力発電というものをスタートさせたわけです。
次世代スパコンについても同様に無理がある決定が政治家とそこにごく近い
官僚によってなされたように見えます。
つまり、50年前に商業的な原子力発電を始めた人々、特に政治家や電力会社の
人には原子力発電の危険性、事故の時の被害の大きさは十分認識されていたと
思われます。しかし、50年のうちにその記憶が風化したのか、反原発運動に対
抗するために「安全だ」と言い張ってきたらいつのまにか自分でもそれを信じ
るようになったのか、あるいは安全でないとわかっていても安全であるという
建前で行動する二重思考的な行動パターンを身につけたのか、なんだかわから
ないのですが、結果として、公式の主張である「安全である」という前提に基
づいて色々な施策が進められてきたわけです。
実際に事故が起こっても、起こっていることが信じられない、ある
いは、建前としての「安全である」という前提に従った行動を続ける、と
いうことになり、被害を非常に過小評価し、例えば電源が回復すれば
冷却系が動くとかいった、極めてありそうにない希望に基づいた作業で
時間を無駄にする、ということをやってきたように見えます。
これは、官僚や原子力安全委員会のメンバー個々人の問題というよりは、現在
の官僚機構自体の問題、あるいは、無理とわかっていて原子力発電を始め、原
子力発電を拡大する電力会社に都合の良い施策をした政治家に問題があった、
ということではないかと思います。
実際の原発の状況のほうはなにも変わりはないのですが、現状の理解と今後どうなる/でき
るか、については色々間違っているように思われる主張が見られるのでその辺
について。
結構多くの人が、放射性物質の放出は 3/15 がメインであって、その後はない、
特に現在は止まっている、と考えている、あるいは少なくともそう考えている
ような発言をしています。これは、以下の2つの理由で間違っているものと私
は考えています。
まずはデータからです。 3/21-22 にかけて関東にむけた風が吹き、雨もふっ
たのですが、この時に関東の広い範囲で大量の降下物があり、地表の放射線レ
ベルが上がっています。東京都新宿区で I-131 で7万 Bq/m^2 と、ウィンズケールの
事故であれば高濃度汚染区域と分類される程度です。放射線レベルとしては
0.15uSv/h 程度です。千葉県柏市の東大キャンパスやガンセンターの中では
0.7uSv/h 程度まで上がっていて、数十万Bq/m^2 の降下物があったことになり
ます。 3/15-16 にでたものが1週間たっておちてきた、と考えている人もいる
ようですが、関東にこの2日間で落ちた量は20万キュリー、10^16Bq(1万テラベ
クレル)の程度で、それが1週間もの間日本上空にとどまるというのはありえな
いと思われます。なので、この2日間に原発から放出があったと考えるべきで
す。
上に書いたように 3/21 以降現在までも関東に降下物はあり、福島からの風が
吹いた日にあり、さらに雨が降ると多い、となっています。素直な解釈は、
原発からの放出は、量は減ったが続いている、というものでしょう。
次に、理論的、というか、原発自体の状態から、放出が止まっているとは考え
にくいです。大気中への放出は基本的に水蒸気の蒸発に伴うものと思っている
わけですが、この蒸発量は基本的には燃料にある放射性物質の崩壊熱に比例し
ます。崩壊熱はいくつかのモデル計算では時間の1/3-1/4乗程度で減少し、
2、3号炉で停止1時間後に20MW、1日後に10 MW、1ヶ月後に 4-6 MW、1年後で 1-3MW です。
つまり、現在で1日後の半分、1年たってもさらに半分にしかならないわけです。
このため、蒸発する水の総量は今までの1ヶ月に比べてこれからの1年が 3-5
倍程度になります。もしも、水蒸気に含まれる放射性物質( I-131 はそろそろ
無視できますが Cs-137, 134) の量が今後もあまり変わらないなら、今後まだ
これまでの数倍のセシウム等が放出される、ということになります。
何度か書いたように、この蒸発は、十分な量の水を投入することで抑えること
ができます。が、ただ水を大量に入れるとそれは溢れて地下水や海を汚染する
ので、大量に入れるならどうしてもそれをくみあげて保管、あるいは濃縮処理
等をする必要があるわけです。現在のような、蒸発熱でやっと冷やせる程度の
水の投入を続ける限り、放射性物質の放出は止まりませんし、今後でる量のほ
うが多いわけです。
(ここから 4/17 追記)
安全委員会の推計 で
も、セシウムの放出の半分以上が 3/17 以降に起こっていて、3/21-22 の間の
放出量は数万テラベクレル、となっています。これは SPEEDI を使った計算だ
と思います。上の私の、関東に落ちた量が大体1万テラベクレル、というのと
大体あってますね。
というわけで、 3/16 以降の放出が多い、というのは原子力安全委員会でさえ
認める事実、ということになります。
(ここまで 4/17 追記)
安全委員会、官房長官あたりから、 3 月下旬にはレベル 7 と判断する材料は
あった、という発言がでたようですが、まあ、もちろん 3/18 あたりには材料
はそろっていたわけです。
そう判断していたけど公式には発表しなかった、ということだとなかなか大問
題な気がするわけです。レベル7だと早い段階でいったとしたらやるべきことが
できたか、というと、少なくとも避難区域の設定等はより早期に適切なものに
できた可能性があると思います。その意味では、これはかなり大きな問題と思
います。
また、雨の予報もあります。こっちも細かいところはあまり信用できない気が
しますが、大体の目安になります。原発から風がふいている時の雨のふりはじ
めには気をつけたいものです。
この辺は、ちゃんと国が予報とか出すべきと思いますが、、、
「ただちに健康に危険があるレベルではない」って、それ、ただちではないけ
ど危険があるかもしれないの?というような疑問もでてくるわけですから。
100. 福島原発の事故その4 (2011/4/10-17)
100.1. 現状は?
4/9 800
4/8 370
4/7 42
4/6 -
4/5 -
4/4 -
4/3 -
4/2 15
4/1 -
3/31 26
3/30 390
3/29 57
3/28 14
3/27 21
3/26 -
3/25 160
3/24 99
3/23 63
3/22 420
3/21 12000
3/20 13000
3/19 48
3/18 86
まず、 3/20, 21 に大量の降下があったことがわかります。千葉、東京他関東
圏の汚染は現在のところ殆どこの2日間に降下したものによっています。が、そ
の後の降下量の合計はこの2日間の 6% 程度あり、小さいとはいえ無視できない
量です。 3/30 には原発から茨城県のほうに風がふいており、その結果放射性
物質がとんできた、というふうに考えるのが自然です。この日は雨ではなかっ
たので、降下物の量としては少なくて済んだように見えます。まだデータがな
いのですが、 4/9 は雨だったので、もうちょっと降下物が多いかもしれません。
100.2. もうちょっとなんとかならなかったの?
水が完全になくなって燃料棒が露出すると、熔融した燃料が建屋の床や地面
もとかして沈んでいき、地下水層に達して水蒸気爆発を起こし、今まで環境
中にはあまりでていなかったストロンチウム等やプルトニウムも大気中にば
らまく、というのが考えられる最悪の事態で、こうなるとチェルノブイリで
も経験していないレベルの事態になります。そうならないためには建屋の床
に広がっていると思われる燃料を数ヶ月にわたって冷却し続ける必要があり、
蒸発しない程度の大量の水をいれるなら放射性物質が海に流れこむ、そうで
なければ大気中へのヨウ素、セシウムの放出が続く、ということになります。
1ヶ月程度で大半が放出されるのではないかと思います。
現在まで、蒸発しないと冷やせない程度の水をいれていて、ずるずる
大気中へのヨウ素、セシウムの放出が続いています。「1ヶ月程度で大半が放
出されるのでは」と書いたのですが、これは蒸発による場合にはどうもそうは
いかないようで、まだ大半が建屋とかその辺に残っているように見えます。で、
理想的には、これも前に
全てが上手くいくと、1次冷却系(緊急系でもなんでもいいが、熱交換器を通
せる閉鎖系のもの)と2次系の両方が回復し、放射性物質をたれながすことな
く炉心その他を冷却できるようになります。そうなると基本的に事故は収束、
ということです。
と書いた通りですが、その方向の努力は現在のところ全て失敗に終わっている
わけです。現在の(というより1ヶ月前からの)最優先の課題は、とにかくまず
大気中への放出を止めることであったはずで、そのためにはとにかく
もっと沢山の水をいれて蒸発しなくても冷えるようにしないといけなかった
わけです。
100.3. で、そういう対応ができてないのは一体どうして?
100.4. 現状と今後 (4/13 追記)
100.5. レベル7
100.6. 参考になるサイト(再々掲)
100.6.1. リアルタイムモニタデータ
単位、表示方法がバラバラですが、例えば茨城県で急に数字があがると、風が
千葉とか東京にまでくる可能性が高いので、注意したいところです。 Gy(グレ
イ)はγ線、β線に関する限り Svと同じ単位です。
100.6.2. もうちょっと遅いデータ
同じ時刻でも新宿と東大駒場では振る舞いが違ったりしていて、原発から200
キロ離れていてもほんの数キロの距離でだいぶ違うことがわかります。
100.6.3. その他
33時間風予報は、33時間後(1日4回更新のようなで26時間後くらいまでしかな
い時もありますがう)までの風向き、風速の予報データが見られます。放射性
物質がこの通りにくる、というわけでは決してありませんが、原発の上を強い
西風がふいていればしばらくは大丈夫だし、自分のいるほうにふいていれば要
注意です。
Previous | ToC | Next |