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109. 「スパコン京への疑問」について(2011/11/16)

昨日の続きで、今日はスパコン京への疑問について。

  もし、スパコンを利用している方が読者にいらっしゃったら、どうぞ下記の
  問いに対してのご意見をお寄せください。
ということなので、こっちにも一応。戦略分野にも関わることですが、分野5 の副拠点長という立場のことはあまり考えないで回答しています。まあその、 開発計画と目標設定に問題があるものを、できた後で多少でも有効に使おうと 色々してそれなりに形がまとまってきたところなので、あまり個別の細かいこ とをどうこうしてもしょうがない、ということはまずあるということは了解し ていただきたいと思います。本質的なのは、なぜ現在のような形の開発計画に なったのか、ということで、それについては 108 に書いた通 りです。

  スパコン京の利用については、選定機関が認めたものに限るようだが、既に
  科研費の審査を通ったものについて、再度、スパコンを利用するための申請
  書を書き、それを審査するのは無駄ではないか。負担金額に応じたリソース
  が使えるようなルールにすべきではないか。(科学振興予算の純粋科学と技
  術開発の割り振りを適正化する必要がある)

「京」のマシンタイムは研究費と等価交換可能なものではなく、どちら かというと望遠鏡や実験装置のマシンタイムのように、利用提案の技術的な 詳細と科学的な価値を適切な専門知識がある専門家が判断する必要があります が、これを自然科学の全分野に渡る科研費の審査委員に要求するのは全く現実 的ではありません。この意味で、リソースアロケーションには専門委員会が必 須です。

  成果目標の明確化を求めると、純粋な研究の可能性を狭めないか。
これは戦略分野から文部科学省に常にいっていることではあります。が、「成 果」をどう定義するかの問題であり、科学的成果についての目標と、ソフトウェ ア開発についての目標を区別し、後者についてはある程度の明確化をすること が必要と考えます。

  来年6月の引き渡しから半年近く経った11月からしか供用されないのはな
  ぜか。

  京を中核とするネットワークで接続されたHPCIとこれまでのネットワー
  クに接続されているスパコンの環境はどこがちがうのか。
私もわかりません。

  「次世代スパコンと全国の主要スパコンをネットワークで結ぶことにより、
  研究の内容、性質に応じて最適なスパコンを選んで計算することが可能にな
  る」というが、計算機を使い分けることが実際にあるのか。 
例えば戦略分野の場合にはこれはあります。計算規模が小さいものや、後処理 等は基本的に「京」以外で行うことになると考えています。

  ソフトウェアのデバッグを考えると、京一台というのは効率が悪くないか。
現在では、「京」の一部を使って複数の人が並列にデバッグができるので、一 台しかないことはそれほど問題ではありません。早い時期に開発環境が用意さ れなかったことは大きな問題であると考えています。

  東大の次世代スパコンは、富士通の1ペタ以上のものになるが、これまでの
  日立のスパコンからのソフトウェアの移行という作業が加わることをどう考
  えるか。 

  また、京大の次世代はCLAYになるが、同じような問題が発生するのだろ
  うか。
これらについては、移行コストのために1ベンダーに拘束される、ということ はそもそもあってはいけないことであり、また多くのユーザーはベンダー固有の 環境にあまり依存しないようになっています。このため、それほど大きな問題 ではありません。私が今年3月まで責任者であった国立天文台のスパコンセ ンターでも、富士通から NEC+Cray に移行しましたが、移行コスト以上に 性能向上のメリットがあったと考えています。

  民間で京クラスのスパコンを必要とするところがあるか。ソフトウェアをか
  ける研究者がいるのか。これまでのスパコンの民間の利用はどうだったのか。
民間といっても多種多様で簡単にはいえません。個人的な印象としては特に国 内ではスパコン利用はアメリカに比べて遅れていると感じます。

  本当に「スパコンを利用した研究が飛躍的に進展し、推定利用者が1000
  人から2万人になる」か。 
前者はともかく、後者は「京」の利用者というより HPCI 全体のことと思われ ます。

  開発加速の経費110億円が削減されたのにほぼ当初のスケジュールできて
  いるのはなぜか。企業努力なのか。

  NECや日立に支払われた開発経費はどうするのか。

  メンテナンス経費は適正か。

  ストレージの単価の低減が急激に起こることを考えると、ストレージの導入
  計画は適正か。
この辺は私は知りません。

  スパコンの利用率は導入年度には低く、後年度に高くなることを考えると、
  性能はレベルアップ方式で調達すべきではないのか。
通常の計算センターの調達としてはそういう考え方もありえますが、今回の 「京」の計画は開発委託的なものでありそういう形では無理です。大学の計算 機センターに順次導入されることが日本全体としてはレベルアップに対応する ことになります。

  10ペタという開発目標は適正だったのか。

  10ペタフロップスの性能に対して、1ペタバイトのメモリーは適正か。
個人的な意見としては 10PF は開発コストに対して低く、 1PB は過大と思い ますが、別の意見もあると思います。

  文科省は、かつてLinpackで一位になった中国のスパコン「天河」に関して、
  「多くのアプリケーションで必要とされる主記憶との間のデータ転送性能が
  十分とは言えず、応用範囲は限定的。性能を引き出すためには専用の言語で
  のプログラミングが必要となるため、ソフトウェア試算の継承や流通が難し
  い」と指摘したが、なぜ、京では10ペタフロップスだけが強調されるのか。
これは単純に Linpack で世界一になったところだからで、アプリケーション の性能についてはこれから色々成果がでてくるはずです。

  スカラー型とベクター型の混合型が適正とした当初の計画から、スカラー型
  のみの計画に転換したのはなぜか。
これについては 108 に書きました。

以上です。
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