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3.1 初期値問題の解の存在

さて、初期値問題である。直観的には、初期値問題であれば、初期値があれば その少し後の値が決まり、その少しあとの値が決まればまたそのあとも、、、 ということで決まっていく(数値解---計算機で求める解---は実際にそんなふ うにする)わけで、そういう方針で構成的な解の存在証明をすることも不可能 ではない。が、普通の教科書(常微分方程式論の)にのっているのはピカール の方法というものなので、一応それにそって説明する。

常微分方程式の初期値問題

での解を考える。今、 関数f が領域 で連続であり、最大値、最小値をもつと しよう。絶対値が M でおさえられ、 という関係がなりた つとする。さらに、上の範囲の任意の t, x についてリプシッツ条件

を満たすものとする。

このとき、上の常微分方程式の初期値問題の解は存在し、しかもただひとつで あるというのが。解の存在と一意性についてのコーシー・リプシッツの定理で ある。

以下、証明である。証明のためには、逐次近似といわれる方法を使う。具体的 には以下の関数列を考える。

まず、この関数列が以下の性質をもつということを示す。

  1. 連続である
  2. を満たす

これらは帰納法で示せる。面倒なので省略。次に、この関数列が一様収束する ことを示そう。このためには、級数

(これは定義により と同じもの)の一様収束が示せればよい。

である。ここでリプシッツ条件から

 

となる。今、 k=1の場合について考えると、

したがって、

あとは同様にして

 

がいえる。従って、右辺の和が一様収束すれば左辺も一様収束する。ところが、 右辺の和は指数関数のテイラー展開になっているので一様収束する。つまり、 極限が存在する。

この級数の極限は、結局もとの方程式の解になっている。 なお、一意性についての証明は面倒なので省略する。

さて、ここまででは、リプシッツ条件を満たす狭い範囲でしか解が出来ていな いが、一般にはその先に延ばしていくことが出来る。これを解の延長という。

ここで求まって(というか、あることが示された)解は、可積分でなくても存 在するということをもう一度注意しておく。前に示した3体問題の解は、そう いう意味で存在しているわけである。



Jun Makino
Thu Aug 13 14:18:16 JST 1998