GRAPE プロジェクトは 1988 年に始まり、それから 6 世代、10種以上のバリ エーションがあるハードウェアを開発してきた。 GRAPE-3 以降は商品化もさ れており、現在、世界中に広がる 30以上の研究機関で100枚を超えるボードが 稼働している。さらに、天文学の他、分子動力学用の類似のハードウェアも、 GRAPE-3 を東大と共同開発した富士ゼロックスがその後独自に開発した MD-Engine、その改良形の MD-Engine IIの他、東大が中心に開発した MD-GRAPE (商品版は画像技研が開発)、その後継であり、理研で開発されたピー ク性能 75 Tflops に達する MDM、さらには計画中のその後継機と発展してき ている。
天文の分野についていえば、 GRAPE はそれなりの成功を収めてきたといっ てもまあそんなに嘘ということもないであろう。 GRAPE-4(1995年、 1.08Tflops) および GRAPE-6 によって2世代にわたって曲がりなりにも世界最 高速の計算機を、汎用計算の価格の 1/100 程度の総開発費(人件費がはいって ないとかいいたい人もいるかもしれないが、4,6 のどちらも大学でハードウェ ア開発にかかわったのは学生を含めて数名であり、どう多めに数えても人件費 は大した額にはならない)で実現したのである。また、単に大きな機械が出来 たというだけでなく、GRAPE を使った研究も太陽系形成から宇宙の大規模構造 の形成まで様々な領域で成果をあげていると思う。
汎用マイクロプロセッサの発展が現在のコースの延長上にある限り、トランジ スタの演算に使われる割合はますます下がっていくであろう。これに対し、粒 子系シミュレーションの計算のうち、相互作用計算に専用化したハードウェア を作るという GRAPE のアプローチでは、基本的に全てのトランジスタを演算 器に使い続けることが出来る。従って、 GRAPE のような専用計算機の優位性 は、新しいハードウェアの開発を続けていく限り当面の間揺らぐことはない。