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4 FMMの効率的実装

 

FMM の計算コストを減少させる方法についてはいくつか簡単に述べたが、ここ では実装を簡単にする(必ずしも計算量は減らない)方法を2つ紹介しておく。 これらは、プログラムが簡単に実現できるという意味で、 FMM が広く使われ るためには重要なものと考えられる。

4.1 アンダーソンの方法

Anderson [13]は球面調和関数を使わないで FMM を実現する 画期的に安直な方法を提案した。彼のアイディアは、球面調和関数の展開係数 をデータとして使う代わりに、球面でのポテンシャルの値そのものを使おうと いうものである。半径 a の球の中の粒子が外に及ぼすポテンシャルは、球 の表面でのポテンシャルの値がわかっていればラプラス方程式の境界値問題を 解けば与えられる。解はポアソンの公式を使って以下のように書ける

ここで n次ルジャンドル関数である。この積分を、球面上で の適当な標本点を使った数値積分に置き換える。2次元であれば、円を等分割 すればいいが、3次元ではうまく点をとってその上で球面調和関数の直交性が 保存されるようにする必要がある。これは良く研究されていて、文献[14][15]を見れば 数値的にそのような点が求められているので、それを使えばよい。

子セルの外の多重極展開をその一つ上のセルでのそれに変換するには、上の式 に従って親セルを含む球面上でのポテンシャルを求めればいい。また、局所展 開も、 での展開が rでの展開に変わるだけで上と同じ式である。さら に、多重極展開を局所展開に変換するには、上の式をつかって局所展開す る球面上でポテンシャルを評価すればよい。つまり、上の式だけで、 FMM に必要な数学がすべて表現されていることになる。

4.2 PM法

ここで、著者らが最近提案したPM法 (pseudo-particle multipole method) にも簡単に触れさせていただきたい。基本的な考え方はア ンダーソンの方法とほとんど同じものであるが、違いは球面上でのポテンシャ ル分布を使うのではなく球面上の質量分布によって多重極展開を表現するとい うものである。定式化はアンダーソンの方法とほとんど同じであり、

という形で実粒子の分布から仮想粒子の質量が表現される。ここで, はそれぞれ実粒子、仮想粒子の質量であり、 は展開の中心から見て実粒子と仮想粒子がなす角度、は実粒子の原点か らの距離、 r は仮想粒子を置く球の半径、Kは仮想粒子の数である。

この方法は、 FMM よりもむしろツリー法との組み合わせで有効であり、粒子 間相互作用を計算するだけで高次精度のツリー法が構築できることになる。



Jun Makino
Thu Nov 26 22:10:48 JST 1998