東京大学の GRAPE-6 IEEE ゴードン・ベル賞を受賞!

Press release 2001/12/17

ハイ・パフォーマンス・コンピューティングの世界におけるもっとも権威ある 賞の一つであるゴードン・ベル賞を、東京大学の牧野淳一郎(理学系研究科助 教授)、福重俊幸(大学院総合文化研究科助手)が受賞しました。

ゴードン・ベル賞は 計算機設計者として著名なゴードン・ベル氏が並列計算 技術の推進のために1987年に創設した賞で、米国電気電子学会コンピューター 協会(IEEE Computer Society)によって運営されています。毎年、並列計算機 を実用的な科学技術計算に応用し、最も優れた性能を出した人々に与えられて きました。実効性能、価格性能比、特別部門の三つの部門があり、それぞれ応 募があったものの中から審査で受賞者がきまります。毎年米国で開かれるスー パーコンピューティング国際会議の会場で授賞式および受賞内容の講演が行な われています。今回もコロラド州デンバーで開かれたSC2001(11月10日〜16日) で発表され15日に授賞式がありました。


ゴードン・ベル

受賞した計算は、東大が開発した GRAPE-6 システムによる銀河中心核におけ るブラックホールの運動の多体シミュレーションであり、実効性能比部門で、 11.55 Tflops という値を達成したことが評価されたものです。 1 Tflops (テラフロップス)は、1秒に 1兆回計算をするという速度で、 11.55 Tflops は、最新のパソコン数万台に相当する性能になります。

なお、GRAPE-6 は、日本学術振興会未来開拓学術研究推進事業「計算科学」部 門の「次世代超並列計算機開発」プロジェクトで開発されたものです。GRAPE システムは、東京大学が 1989 年から開発している天文シミュレーションのた めの専用計算機です。 1995 年に完成した GRAPE-4 はすでに 1995年、1996年 にもゴードン・ベル賞を受賞しており、昨年には GRAPE-6 の小規模システム が、 1.34 Tflops と今回のほぼ 1/10 の速度でしたがやはり受賞してい ます。

一連の GRAPE システムがこのような優れた性能を実現できたのは、基本的に は GRAPE が問題に特化した専用計算機であるからです。天文シミュレーショ ンのなかでも、 GRAPE が扱うのは太陽系や銀河のような、多数の天体がおた がいの重力を受けて運動しているようなシステムです。このようなシステム のシミュレーションでは、計算時間のほとんどが重力の計算にかかります。したがっ て、重力の計算だけを速くすれば、計算全体を速くすることができることになります。

GRAPE の基本的考え

具体的には、現在の主流であるマイクロプロセッサを多数並列に並べた超並列 計算機に比べると、同じ計算に対して同じ費用でほぼ100倍の性能を達成でき ています。例えば、昨年末に完成した、これまで最高速であった米国ローレン ス・リバモア研究所の ASCI White マシ ンであり、その理論的なピーク計算速度は 12.3 Tflops (1秒間に12兆3千 億回の演算を行なう速度)でした。今回東京大学が完成させた GRAPE-6 のピー ク性能は 32 Tflops であり、ASCI White の2.5 倍になります。さらに注目す るべきことは、 GRAPE-6 の開発総予算はわずか 5 億円であり、調達価格が1 億ドル以上といわれる ASCI White の約 1/20 でしかないことです。

今年度末に完成予定の地球シミュレー タは 40 Tflops と現状の GRAPE-6 を上回るピーク速度を達成しますが、 開発費用は400億円、1年間の電気料金だけで10億円近いと言われています。

このように、汎用計算機が急速に大型化、高コスト化している一つの理由は計 算機技術の限界にあります。半導体技術は急速な進歩を続けているのですが、 それを計算機の性能向上に結びつけることが難しくなってきているのです。

汎用計算機の「成長の限界」

GRAPE のような専用計算機は、汎用計算機の限界を越えて発展を続けることが できるため、今後ますます重要になると期待されます。 また、天文学以外の分野への応用も、理研の MDMの他、富士ゼロックスの MD-Engine や画像技研の ITL MD-1 などのように商品化されたものもあり、ゆっ くりとではありますが広がりつつあります。

問い合わせ先:


牧野淳一郎
東京大学大学院理学系研究科天文学専攻
113-0033 東京都文京区本郷 7-3-1
Tel 03-5841-4276 Fax 03-5841-7644(学科事務)
Email: makino@astron.s.u-tokyo.ac.jp

このページの URL:http://grape.astron.s.u-tokyo.ac.jp/press/2001-gbprize.html

過去のゴードン・ベル賞(性能部門)

Year

Winner

Application(s)

Performance

1988

Phong Vu (Cray Research) et al.

Static finite element analysis

1 Gflop on 8-proc. Cray Y-MP

1989

Mark Bromley (TMC) et al.

Seismic data processing

6 Gflops on a CM-2

1990

Mark Bromley (TMC) et al.

Seismic data processing

14 Gflops on a CM-2

1992

Salmon and Warren (Clatech/Los Alamos)

Astrophysics

5 Gflops on Intel Touchstone Delta

1993

Long et al. (Penn. State U.)

Shock modeling with Boltzman equation

60 Gflops on CM-5

1994

Womble, et al (Sandia)

Structual mechanics using BEM

140 Gflops on Intel Paragon

1995

Yoshida et al. (NAL)

QCD

179 Gflops on NWT

1996

T. Fukushige and J. Makino (U. Tokyo)

Astrophysics

333 Gflops on GRAPE-4

1997

Warren and Salmon (LANL/Caletch)

Astrophysics

430 Gflops on ASCI RED

1998

Ujfalussy, et al. (ORNL)

Material Science

657 Gflops on Cray T3E

1999

Mirin, et al. (LLNL)

CFD (Turbulence)

1.18 Tflops on ASCI BP

2000

Makino/Ebisuzaki (U. Tokyo/RIKEN)

Astrophysics/Material Science

1.349 Tflops on GRAPE-6/MDM

2001

Makino and Fukushige (U. Tokyo)

Astrophysics

11.55 Tflops on GRAPE-6

速度の歴史

赤は GRAPE によるもの

GRAPE に与えられた過去のゴードン・ベル賞(全部門)

部門

記録

1995 特別(専用計算機) (529 Gflops)
1996 性能 333 Gflops
1999 価格性能比 7$/Mflops
2000 性能 1.349 Tflops
2001 性能 11.55 Tflops

関連リンク

資料写真等

GRAPE による銀河形成シミュレーションの例(東京大学・中里直人氏提供)

GRAPE による銀河団形成シミュレーションの例(東京大学・福重俊幸氏提供)

GRAPE-6 全体(クリックすると大きくなります)

GRAPE-6 と牧野助教授

GRAPE-6 プロセッサボード

GRAPE-6 はこのプロセッサボード 32 枚からなる。1枚のプロセッサボードには32個のプロセッサ LSI (写真では黒いヒートシンクの下)が搭載されている。各プロセッサチップは粒子間相互作用を高速に計算するために開発されたカスタム LSI であり、100 Mflops で動作して 31 Gflops の計算速度を持つ。この速度は最新のパーソナルコンピュータの CPU (Intel Pentium 4 1.8 GHz) のおよそ 20 倍であり、しかも消費電力は約 1/10 となっている。