next up previous
次へ: 5 次回の予定 上へ: 理論天文学概論 戻る: 3 自己相似解の後の進化

Subsections

4 「現実の」球状星団

先ほど述べたように、球状星団の進化を普通に考えると、適当な初期条件から 始めると典型的には数十億年程度の時間がかかって重力熱力学的なコラプスを 起こす。その後の進化は、球状星団が理想的な質点系ならば重力熱力学的振動 を起こすということになるが、実際にそうなるかどうかにはいろいろな問題が ある。

  1. 星同士の物理的な衝突・合体の効果は無視できるとは限らない

  2. 始めから連星があるとまた話が変わる

4.1 連星

まず、初期にある連星の効果を考えてみよう。連星は極めて一般的なものであ り、太陽近傍の星は 50% 程度は連星である。また、種族 II の星も相当部分 が連星という観測結果もある。

これに対して、 1990 年頃までは、「球状星団には primordial な連星はない」 と思われていた。これは、 Gunn and Griffin (1979, AJ 84, 752) の広く影 響をもった仕事があり、かなり頑張って分光的な連星を球状星団で探したけれ ども全く見つからなかったという結果になったことが大きい。

しかし、1990 年前後から状況が大きく変わる。結局、観測精度が上がると様々 な方法で続々と連星が見つかってきたのである。

連星があるとコラプスの後の進化は大きな影響を受ける。これは、恒星進化で H の他に D があるようなもので、エネルギー生産率を非常に大きくするから である。

つまり、連星を作るためには、3つの星がたまたま同時に近くに来る必要があ り、このためには非常に密度が高い必要がある。 しかし、連星が初めからあ れば、それが他の星と近づけばそれだけでエネルギー生産になるわけである。

また、連星はもちろん単独の星より重いので、2体緩和の時間スケールで系の 中心に集まってくる。このために、星の場合とは違って、連星「燃焼」段階は 簡単には終わらない。

単純に初期には球状星団の星の相当部分が比較的コンパクトな連星であったと すると、緩和時間が短く重力熱力学的コラプスが起きるような星団でもほとん どの場合には現在まで連星燃焼段階が続くという結論になる。もっとも、そう だとすると極めて深くコラプスした M15 のような星団の存在が説明できない ことになり、球状星団と連星の関係については理論的にはともかく観測的、実 証的にはまだこれから研究するべき課題が多い。

4.2 星同士の衝突

現在の我々の銀河系では球状星団クラスの10万個以上星が集まったも のは全て非常に古いものであり、 従って現在ではあまり重い星はない。この ため、特に密度が高い球状星団コアにある星はほとんどが中性子星や重い白色 矮星であると考えられ、これらはは非常にコンパクトな星であるために物理的 な衝突は極めて稀である。 また、もっと若い散開星団では重い主系列星もあるが、星団自体の密度が低く てやはり物理的な衝突はあまり重力ではないと考えられてきた。

しかし、観測技術が 1990 年代にはいって進んだことで、この辺りも描像が大 きく変わってきた。一つは、我々の銀河中心近くで、非常に若くコンパクトな 星団がいくつか見つかってきたことである。 Arches, Quintuplet といった星 団は、銀河中心から 30pc 程度の距離で 1 万個程度の星が集まった星団であ り、年齢も数 Myrs と極めて若い。これほど銀河中心近くで存在できていると いうことはもちろん極めて高い密度を意味しており、 星同士の衝突が特に中 心部では無視できない。

また、 LMC や M82 などの系外銀河の星形成領域では、非常にコンパクトで大 質量な星団が見つかってきている。

最近のシミュレーションの結果では、これらの星団では中心で星同士の暴走的 な合体が起きる可能性が指摘されている。つまり、元々重い星が中心の密度が 高いところに集まってくるので、これら同士が選択的に衝突する。衝突によっ て重い星ができると、それは衝突断面積が大きくなるので他の星より衝突しや すくなり、ますます衝突・合体によって成長する。これは、この暴走的に成長 した星が超新星になるなりブラックホールになるなりするまでとまらない。

つまり、現在の球状星団ではこれから中心にブラックホールが形成されること はありえないが、最近見つかってきた若くて高密度の星団ではそのようなこと が現在起きているかもしれない。これは、我々の銀河系の球状星団でも、昔に はそういうことがおきたかもしれないということでもある。

4.3 中心ブラックホールのある星団の構造と進化

では、中心にブラックホール(というか、なんか重いもの)がある星団ではどの ような構造が見られることになるだろうか?これに理論的に答えたのは Bahcall and Wolf (1978) である。この頃には球状星団の中心にブラッ クホールがある可能性がかなり高いと考えられていたため、そのような方向の 研究が盛んであった。しかし、 球状星団の X 線源がほとんど Low-mass X-ray binary、つまり中性子星と小さな主系列星の連星であり、また必ずしも 星団中心にあるわけでもないということが 1980年代になって明らかになった ため、しばらくこの方向の研究は止まっていた。

それはともかく、Bahcall and Wolf はフォッカープランク方程式を数値的に 解くことで密度構造を決めたが、その結果は解析的に理解できることがわかっ ている。その考えは以下のようなものである。

中心部分の、ブラックホールの重力が支配的な領域を考え、また簡単のために 分布関数は等方的であるとする。 速度分散はポテンシャルで決まるので、ケ プラー速度になって速度は $v \propto r^{-1/2}$ になる。密度が $\rho $ であるとしよう。

中心に向かって温度があがっているので、熱は中心から外側に向かって流れる。 ここで、定常状態ならば熱流 $L$ が半径に依存しない。

大雑把にいうと、ある半径での熱流は、そこでの緩和時間くらいの間にその領 域の全エネルギーぐらいが流れ出すと考えることで見積もることができる。こ れはなんか根拠がない仮定であると思うかもしれないが、仮に密度が半径のべ きであるとすれば、 温度は元々半径のべきなので無次元量としての温度勾配 の大きさはどこでも同じになるため、この仮定は正しいことになる。

問題は、ではそういうべき乗の解はあるかどうかということだが、緩和時間は $t_r \sim v^3/rho$ の程度、全エネルギーは $T = Mv^2 \sim \rho r^3 v^2
$ の程度なので、 $T/t_r = 一定 $ と置くことで

\begin{displaymath}
\rho \sim r^{-7/4}
\end{displaymath} (9)

という関係がでてくる。

こんな大雑把な計算でいいのかと思うであろうが、割合うまく数値計算の結果 を説明できている。



Jun Makino 平成20年6月30日