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3 フォッカープランク近似

さて、数値計算の精度がどうという話を別にすれば、2体緩和を考える理由はそ れにより系がどう進化するかを理解するということである。そのためには、粒 子の速度変化のモーメントの式から、分布関数の変化についての方程式を導く ことが有用であろう。

粒子の物理量の変化の1次と2次のモーメントから(高次の項の寄与を無視して) 分布関数に対する移流拡散方程式を導くことができる。この操作を通常フォッ カープランク近似といい、でてきた方程式をフォッ カープランク方程式という。以下、その導出を行なってみる。 これは、ボルツマン方程式の衝突項を求めることに対応する。

今、 $P(\mbox{\boldmath$v$}, \Delta \mbox{\boldmath$v$})d\Delta v$ が、速度 $\mbox{\boldmath$v$}$の粒子が、時間$\Delta
t$の間に速度変化 $\Delta \mbox{\boldmath$v$}$ (の近傍の $d\Delta \mbox{\boldmath$v$}$の範囲)を受ける確率であるとする。 すると、 $\Delta
t$ たった後の分布関数は以下のように書ける

\begin{displaymath}
f(\mbox{\boldmath$v$}, t + \Delta t) = \int f(\mbox{\boldmat...
...th$v$},
\Delta \mbox{\boldmath$v$})d\Delta \mbox{\boldmath$v$}
\end{displaymath} (41)

これは $\mbox{\boldmath$v$}$ のところにやってくる可能性があるものすべてについての和をとっ ただけである。ここで、両辺を展開することを考える。左辺は
\begin{displaymath}
f + {\partial f \over \partial t} \Delta t
\end{displaymath} (42)

である。右辺は
\begin{displaymath}
\int\left[ fP - \sum_{i=1}^3 {\partial (fP)\over \partial v_...
... \Delta v_i\Delta v_j +
...\right]d\Delta \mbox{\boldmath$v$}
\end{displaymath} (43)

ここで、
$\displaystyle <\Delta v_i> \Delta t$ $\textstyle =$ $\displaystyle \int P\Delta v_i d\Delta \mbox{\boldmath$v$}$ (44)
$\displaystyle <\Delta v_i\Delta v_j> \Delta t$ $\textstyle =$ $\displaystyle \int P\Delta v_i \Delta v_j d\Delta \mbox{\boldmath$v$}$ (45)

とおけることを使えば、微分と積分の順序を入れ換えて
\begin{displaymath}
{\partial f \over \partial t} = - \sum_{i=1}^3 {\partial (f ...
...^2 (f<\Delta v_i
\Delta v_j>) \over \partial
v_i\partial v_j}
\end{displaymath} (46)

これで、理屈の上では分布関数の変化が計算できるということになる。もちろ ん、実際にこれを解いて自己重力系の進化を調べるのは、必ずしも容易ではな い。その理由は、分布関数が6次元位相空間上で定義されること、それがジー ンズの定理を満たすように進化しなければいけないことである。具体的には、

というような困難があり、従来は、分布関数をエネルギーだけの関数と近似す る計算しか行なわれていなかった。1994年頃に、Takahashi が初めて $f(E,J)$の場合に信頼できる結果を得ることに成功した。しかし、これも、拡 散係数を求める時に、フィールドの分布は等方的であるという近似を行なって いる。

なお、モンテカルロ法など、もうちょっといい加減な方法ではある程度のこ とは出来ている。この辺についてはまた後でもう少し詳しく触れる。



Jun Makino 平成21年6月15日