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6 専用計算機の今後

多体シミュレーションは、専用計算機を作るのに非常に適した問題であるとい うことは間違いない。もっとも計算量の大きいところが単純な繰り返しであり、 しかも計算アルゴリズム等が変わってもそこの計算式には変化がないので1台 の専用計算機で多様な問題に対応できるからである。この分野では、技術的な 観点からは専用計算機の優位性は半導体技術の進歩とともにますます大きくなっ ていく。

多体シミュレーション以外の分野ではどうだろうか。例えば差分法による流体 力学計算の場合、多体シミュレーションに比べて以下の2つの理由で難しい。 一つは、 要素あたりの計算量が小さいことである。このために、メモリとの 間の転送速度も速くする必要があるが、これは難しい。もう一つは、シミュレー ション対象やアルゴリズムが変われば計算式自体が変わるので、専用計算機の 適用範囲がそれほど広くならないことである。チップ開発には1億円以上かかる。 大規模な汎用計算機に比べれば2桁安いとはいえ、あまり応用範囲が狭いもの は実際上難しい。

しかし、開発コストの問題については、初期の実験に FPGA を使うことである 程度の解決はできる。FPGA とは Field Programmable Gate Array の略で、その名の通り中の論理回路を変更可能な LSI である。もちろ ん、GRAPE で使っているようなカスタム設計に比べれば集積度で劣るが、それ でも最新の FPGA では計算精度によっては 100 個以上の演算器が集積可能に なってきており汎用計算機より高い性能を実現するには十分以上である。

FPGA の中身の開発環境は、現状では基本的には VHDL 等のハードウェア記述 言語を使う必要があり、かなり敷居が高いものではある。 が、だからといって手を出さなければ何事も始まらない。我々のグループでも GRAPE-6 のプロセッサ部分を FPGA に置き換えたシステムの開発と、その上で の応用プログラムの開発を進めているが、このような新しいアプローチには 「素人」の参入と、それによって生まれる新しいアイデアが不可欠である。 この小文を読んで、専用計算機、あるいは FPGA を使った計算に興味をもっ ていただければ幸いである。

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Jun Makino
平成14年6月13日