1999年のゴードン・ベル賞を 東京大学総合文化研究科の川井、福重と理学系研究科の牧野が受賞した。
ゴードン・ベル賞は、大学と産業界の両方において並列計算機の研究開発をリー ドしてきたゴードン・ベルが並列計算技術の推進のために1987年に創設した賞 であり、米国電気電子学会コンピューター協会(IEEE Computer Society)によっ て運営されている。実用的な並列計算の応用について、実効性能、価格性能比 と、特に並列化が難しいとされている応用の並列化の成果を評価する特別部門 の3部門のそれぞれについて応募のあったものから審査で毎年受賞者を選ぶ。 アメリカ等の国家的な計算科学プロジェクトは応募するのが通例となっており、 大規模科学技術計算の世界では非常にプレステージの高い賞といってもよい。 今年はオレゴン州ポートランドで開かれたハイ・パフォーマンス・コンピュー ティングに関する国際会議 SC99 (11/13-11/19) で発表があった。
図: 過去10年のゴードン・ベル賞の計算速度の推移。上は実効性能、下
は計算機の価格 100万ドル当たりの計算速度
今回受賞したのは、価格性能比部門である。これは、我々が過去 10 年に渡り 開発してきた天文シミュレーションの専用計算機 GRAPE (GRAvity piPE) の最 新版 GRAPE-5 を使って宇宙初期の密度揺らぎから重力不安定によって銀河団 等が形成される過程をシミュレーションする宇宙論的 N 体計算を行ない、 1Mflops あたり $7 という数字を達成したことに対して与えられたものであ る。なお、 GRAPEがゴードン・ベル賞を獲得したのは 1995, 1996 年(いずれ も実効性能)に続いて3度目となる。
図 に過去 10年間のゴードンベル賞の計算速度を、実効性 能と価格性能比の双方について示す。多少の波はあるものの、どちらも90年代 以前と同様な 10年でほぼ 100 倍の改善となっている。1990年代にも、計算機 技術の進歩は、すくなくともピーク性能に関する限り、従来のトレンドの延長 上にあったということができる。