まず、完成したばかりの GRAPE-6 のことから話を始めよう。GRAPE-6 (図 1)は重力多体問題に特化した専用計算機システムであり、名目ピー ク性能で 64 Tflops と原稿執筆時点で科学技術計算用計算機として世界最高 速を実現した。開発のための総予算は5億円強、開発期間は 5 年間である。
まずは同程度の性能をもつ汎用スーパー コンピューターと比較してみることにする。現時点で単体の汎用計算機として最高 速を実現しているのは今年3月に完成した地球シミュレータであり、ピーク速 度は 40 Tflops である。開発費は 400億程度と言われている。アメリカで開 発中の ASCI Q もピーク性能、コストは同程度である。また、 文部科学省はグリッドコンピューティングによって高いピーク性能を実現する プロジェクトを計画中であり、これは予算 700億、 完成は 5年後で 速度は 300 Tflops と報道されている。同じ価格の計算機の 性能は 5 年で 10 倍というのが普通なので、700億、5年後なら700Tflops は いかないと計算があわないような気もするが、これはソフトウェア等の開発費 もみこんでいるのではないかと想像される。
いずれにしても、これら汎用スーパーコンピューター(あるいは超並列/グリッ ド)と比べた場合、 GRAPE-6 は100-300倍程度高い価格性能比を実現している ことがわかる。
少し別の観点から考えてみよう。現時点でもっとも価格性能比が高い汎用計算 機を入手しようとするなら、最適な解はインテル P4 か AMD Athlon XP の最 高クロックよりもちょっと遅いものを使ったパソコン 1 台である。例えば 1.6 GHz の Athlon XP (1900+) であれば、名目ピークとしては 3.2 Gflops の機械が 8 万円程度で購入可能であろう。まあ、理論的には 2 演算が並列に 実行できることもあるとはいえ、実際には滅多にそんなことはないのでピーク 1.6 Gflops と数えておく。これは 1 Tflops 当り 5000万になり、 64 Tflops だと 32 億円ということになる。これは ASCI Q や地球シミュレータにくらべ て1桁程度安いが、それでもまだ GRAPE-6 に比べると 1桁程度高くなっている。 パソコン 1 台と地球シミュレータの名目の価格性能比の 10 倍の違いに意味 があるかどうかは後で議論するが、いずれにしても GRAPE-6 の価格性能比が 卓越していることは御理解いただけよう。
では、なぜこのような大きな差があるのだろうか。