そのように割合確実に存在するにもかかわらず、大質量ブラックホールがどのよう にできたかということはこれまでほとんど理解されていなかった。これは、大 質量ブラックホール形成過程のモデルがなかったという意味ではない。提案さ れたモデルにはどれも大きな欠陥があり、端的にいってそんなふうにはできそ うにないのである。
これまで考えられていたモデルは、基本的にはリース(Rees)が 1978 年に描い たダイアグラム[10]に乗るものであった。そこで考えられていた 形成シナリオは基本的には以下の2通りである。
最初のシナリオの問題点は、大きな質量をもったものが一気にブラックホールまで いくのは困難であるということである。 程度のガス雲は、温度 によるが、 10 パーセク程度の大きさである。ブラックホールになるには 程度まで縮む必要があるわけで、 8桁の違いがある。重力不安定から一気にブラックホールになるためには初期のガス雲が限 りなく球対称に近く角運動量もゼロに近いものでないといけない。そうでなけ れば途中で円盤になったりし、それが分裂してしまうからである。
というわけで一気にガス雲からブラックホールをつくるのはなかなか難しい。で は、ガス雲からコンパクトで高密度な星団を経由してというシナリオはどうであろう か?既に述べたように、仮に重力熱力学的カタストロフの結果そのような星団 の中心にブラックホールができたとしても、その質量はごく小さい。このため、 非現実的に大質量でコンパクトな星団を初期条件としてもってこないと観測さ れているようなブラックホールをつくれないし、また現在もブラックホールの周 りにコンパクトな星団がなければならず、明らかに観測と矛盾する。
現在あるとわかっている太陽質量の 10 倍程度のブラックホールに非常に長期 間にわたってガス降着を続けることで大質量ブラックホールをつくるという可能 性はもちろんある。が、これは通常は時間がかかりすぎて困難であると考えら れている。
というわけで、大抵の銀河の中心には大質量ブラックホールがあるようであるに もかかわらず、なぜそれがそこにあるのかということについては満足な説明が ないというのが現状である。
ここまでの議論はかなり純粋に理論的なものであった。これは つまり、「大質量ブラックホールが成長しつつある現場」と思われるものが全く 見つかっていなかったためである。
これまでの観測で見つかっているブラックホールは基本的には以下の2 種類である。一つはこれまで述べてきた銀河中心にある大質量ブラックホー ルである。もう一つは、太陽質量の数倍からせいぜい 10 倍程度の、恒星質量 ブラックホールと言われるものである。この間には大きなギャッ プがある。それだけでなく、2種類のブラックホールは、一方は銀河の中心に あり、もう一方は銀河円盤に普通に見られるという意味で空間分布も全く異なっ ており、その間がどうつながるのか明らかではなかった。