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2 調査対象と調査項目

前節で述べたように、調査対象は京都大学物理学第二教室の林忠四郎を 中心とするグループ(A)と、東京大学天文学教室の海野和三郎を中心とす るグループ(B)である。それぞれのグループに属するメンバーは、基本的 に福江、黒川[4]によった。ただし、欠落の可能性があるものについてはグ ループのメンバーに直接チェックしてもらうことで補った。なお、研究 グループのメンバーの研究成果としては、組織上そのグループにいた (スタッフあるいは大学院生として)期間のものだけをカウントした。 なお、調査の対象とした期間は 1969年から 1983年までである。

この2つを対象に選んだ理由は以下のようにまとめられる。

1) 規模、指導者の年齢、人数、研究分野などが近く、ある程度精密 な比較が可能である。

2) グループAはかなり顕著な業績をあげた研究グループであるとみな されている(例えば福江・黒川[4])。例えば日本の物理学者に 与えられる賞のうちもっとも権威あるものの一つとされている仁科賞の授賞者 は、グループBにはいないがグループAでは5名を数える。日本天文学会が出し ている2つの賞でも、理論研究に与えられたもののほとんどがグループAの研究 者、あるいはそのメンバーが作った新しいグループの研究者に与えられている。 さらには、学士院賞、京都賞といったものも、理論天文学者に与えられたもの のほとんどがグループAの研究者に与えられている。

上の第一点は、両者の妥当な比較が可能であるという ことを意味する。上にあげた規模、年齢、人数、分野のどれかが大きく 異なっていては、研究成果の質、その研究者コミュニティの中での評価 のどちらも、意味のある比較が困難になる。違いが何に由来するものか が明らかではなくなるからである。第二点は、その比較可能な2つの研 究グループの研究者コミュニティのなかでの評価が異なるものであるこ とを示す。本研究では、この2つの研究グループの比較を行なうことで、 研究グループの研究者コミュニティのなかでの評価の違いがなにに由来 するものかを調べる。

調査の方法は以下の通りである。 Astronomy and Astrophysics Abstracts (A & A Abstracts) により、調査期間のグループメンバーの 論文のうち refereed journal に発表されているものすべてについて論 文発表年、著者(筆頭著者およびすべての共著者)、分野のデータベー スを作成した。分野の分類は A&A Abstracts に従ったが、表 1のように大きく分野わけをした。この分類は若干恣意的なも のであるが、結果のところで見るように分類の恣意性が大きく結論に影 響することはない。

  
表 1: 我々の分類とA&A 分類との対応

引用度については、 Science Citation Index を用いて調べた。1963年 から1973年までに発表された論文については 1979年までの、1974年から 1979年までに発表された論文については 1984年までの、1980年から1983 年までに発表された論文については 1989年までの引用数をしらべた。た だし、著者自身(共著者も含む)による引用はカウントしていない。年 代のとり方のため、出版年によって引用度を測定する期間に幅ができる が、これは結果には大きく影響することはないと考えられる。これは、引用の ほとんどは出版されてから5年間に起きるからである。

なお、調べた指標は以下の通りである。

なお、サブグループとは、一つのまとまったテーマについて複数の論文 を発表しているグループをいう。典型的には2-4人程度からなる。



Jun Makino
Wed Apr 14 12:49:24 JST 1999