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2 軸対称モードの安定性

式の誘導は結構大変なので、まず流体の場合に結果だけ書く。$k$ を半径方向 の波数、$\omega$ を時間方向の角振動数、$v_s$ を音速、 $\Sigma$ を面密 度、$\kappa$ をエピサイクル角振動数として、


\begin{displaymath}
\omega^2 = \kappa^2 - 2\pi G\Sigma \vert k\vert + v_s^2 k^2
\end{displaymath} (1)

ここで、エピサイクル角振動数とは、与えられた円盤ポテンシャル上での粒子の運 動の、半径方向の振動の角振動数である。これは、有効ポテンシャルの概念を 使って簡単に計算できる。今、ポテンシャルが中心からの距離 $R$ の関数と して $\Phi(R)$ で与えると、有効ポテンシャルは
\begin{displaymath}
\Phi_{eff} = \Phi + \frac{L_z^2}{2R^2}
\end{displaymath} (2)

である。$R$方向の運動方程式は
\begin{displaymath}
\frac{d^2R}{dt^2} = - \frac{ d \Phi_{eff}}{dR}
\end{displaymath} (3)

で、これを円軌道の周りに展開して、 $R= R_0+x$ とすると
\begin{displaymath}
\frac{d^2x}{dt^2} = - \kappa^2 x
\end{displaymath} (4)

で、
\begin{displaymath}
\kappa^2 = \frac{d^2 \Phi}{d R^2} +
\frac{3}{R_0}\frac{d \Phi}{d R}
\end{displaymath} (5)

(微分は $R=R_0$ のところでの値) となる。これを円軌道自体の角振動数 $\Omega$ で書き直すことを考えると、
\begin{displaymath}
\Omega^2 = \frac{1}{R}\frac{d\Phi}{dR}
\end{displaymath} (6)

なので、
\begin{displaymath}
\kappa^2 = R_0 \frac{d\Omega^2}{dR} + 4 \Omega^2
\end{displaymath} (7)

となる。$\kappa$ はケプラー軌道の時に $\Omega$ に等しく、調和ポテンシャ ルの時に $2\Omega$ に等しいので、普通の銀河円盤等のポテンシャルでは
\begin{displaymath}
\Omega < \kappa < 2\Omega
\end{displaymath} (8)

となる。

で、式(1)の意味を考える。まず、 ジーンズ不安定の式と並べてみよう。ジーンズ不安定の分散関係は

\begin{displaymath}
\omega^2 =v_s^2 k^2 - 4\pi G\rho_0
\end{displaymath} (9)

であった。これと、円盤の軸対称モードの式を比べると、
\begin{displaymath}
\omega^2 = \kappa^2 - 2\pi G\Sigma \vert k\vert + v_s^2 k^2
\end{displaymath} (10)

ところがあって、これよりも音速に関係する項は普通の波動方程式になる項で、どちらでも同じ形でなけれ ばならない。次に、重力の項は、ジーンズ不安定では $- 4\pi G\rho_0$ だっ たのが、円盤では $- 2\pi G\Sigma \vert k\vert$ とここにも波数がはいってくる。こ れは、ジーンズ不安定では3次元的に無限一様に広がったものの1次元的な線形 モードを考えるので、摂動自体は2次元方向に無限に広がっていることになり、 要塞間の重力ポテンシャルは距離に比例するものになっているのに対して、円 盤では重力は2次元的なので対数ポテンシャルになり、距離が近いほうが強い、 ということによっている。

最後に、 $\kappa^2$ の項は、重力ポテンシャル自体の微分からくる項で、 音速 0 で自己重力も 0 の極限ではこの項だけになるのでこの形でないといけ ないことは了解して欲しい。

この形からすぐに色々なことがわかる。まず、 $v_s=0$ の極限、つまり、温 度 $0$ の極限を考える。そうすると、

\begin{displaymath}
k_{crit} = \frac{\kappa^2}{2\pi G\Sigma}; \quad
\lambda_{crit} = \frac{2\pi}{k_{crit}} = \frac{4\pi^2 G\Sigma}{\kappa^2}
\end{displaymath} (11)

という臨界波数と臨界波長があって、これより高い波数(短い波長)は不安定だ ということがわかる。

ジーンズ不安定と違うのは、エピサイクル運動が重力を抑える効果になること と、重力が2次元的で距離が近いと強くなるために、波長が短いと不安定で、 成長速度も波長が短いほど大きい、ということである。

温度0でない、つまり $v_s > 0$ の場合を考える。あらゆる波数 $k$に対して 振動数 $\omega$ が実数であるためには


\begin{displaymath}
\kappa^2 - 2\pi G\Sigma \vert k\vert + v_s^2 k^2 \ge 0
\end{displaymath} (12)

であればよく、このためには
\begin{displaymath}
\frac{v_s \kappa}{\pi G\Sigma } > 1
\end{displaymath} (13)

であればよい。
\begin{displaymath}
Q= \frac{v_s \kappa}{\pi G\Sigma }
\end{displaymath} (14)

のことを Toomre の Q値と呼ぶ。

恒星円盤の場合にも、同じような分散関係から安定性限界を導くことができ、 それは

\begin{displaymath}
Q=\frac{\sigma_R \kappa}{3.36 G\Sigma } > 1
\end{displaymath} (15)

という形をしている。ここで $\sigma_R$ は半径方向の速度分散である。ジー ンズ不安定の場合と違って、係数が流体の場合と微妙に違う ($\pi$$3.36$)。

なお、ここまでの解析は、ディスクが無限に薄いとか、重力場や回転の影響は ローカルなポテンシャルの微分だけで書けるとか仮定しているので、波長が半 径$R$ に比べて十分小さく、なおかつディスクの厚さに比べて十分長い場合に ついてのみ適用できる。

ディスクが厚さをもっている場合を考えると、十分短い波長では重力が3次元的に なって普通のジーンズ不安定の表式になる。問題は、 $\lambda_{crit}$ とディ スクの厚さの関係、ということになる。

\begin{displaymath}
\lambda_{crit} = \frac{4\pi^2 G\Sigma}{\kappa^2}
\end{displaymath} (16)

なので、系のトータルの質量。半径、重力定数を 1 程度に規格化した単位系 を考えると $\lambda_{crit}$ はほぼ $\Sigma$ だけで決まる($\kappa$ も1前 後になるため)。原始惑星系円盤や惑星リングのような、 $\Sigma$ が非常に 小さい場合には $\lambda_{crit}$ も系のサイズに比べて非常に小さくなる。 従って、これらの場合には非常に冷たくなければディスクは安定である。が、 例えば惑星リングの場合には実際に非常に冷たく、このために非常に小さなス ケールで多様な構造が現れることが最近ではカッシーニ等の観測で明らかになっ ている。

原始惑星系円盤の場合には、古典的な京都モデルでは、ガスディスクの中でダ ストが赤道面に沈降していって、厚さが $\lambda_{crit}$ より小さくなった あたりで $\lambda_{crit}$ で決まるくらいの大きさに分裂し、微惑星ができ る、というシナリオを考える。実際にこのようなことが起こるかどうかについ ては、ガスディスクが乱流的になるはず、といった議論がありはっきりしない のが現状である。

円盤銀河の場合には、面密度は1まではいかないにしても 0.1 より大きい程度 になり、このために $\lambda_{crit}$ は結構大きい。このため、普通の恒 星円盤では厚さは臨界波長より小さく、 Q 値がそれなりに安定性を表すと思っ てよい。


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Jun Makino 平成21年7月13日