既に述べた、 tight winding の近似のもとでは、m本腕モードの分散関係は
と書けることが示されている。これは要するに、安定・不安定の条件は のモードと全く同じで、不安定な時には実部に が入る、言い換え ると、不安定モードはラグランジュ的に回転にくっついて成長する、というこ とである。
これは、 tight-winding 近似してさらに半径方向に対して波長が短いという 近似もしたので、 の半径依存性もどこかで落として解析したような 話になっている。
実際の銀河では、全く tight-winding も局所近似も成り立たないような大き なスケールでのスパイラル構造が見つかっている。 例えば以下は Spitzer 衛 星で観測した M101 のイメージである。
10 cm
中間赤外で見える低温のガスは複雑な構造をもつが、大きなスケールでのスパ イラルアームがあるように見える。これは、多くの銀河についてそういう構造 があるように見える。
しかし、そのような構造を定常的に維持するメカニズムはなにか、それ以前に そもそもそのようなメカニズムはあるのか、ということは、依然未解決の問題 である。これは、上の解析のように不安定モードは基本的にローカルな角速度 で回転するため、半径方向に広がったモードはどうしても差動回転の効果で時 間がたつと巻き込んでしまうことになり、ある形をもったスパイラルアームが 時間的に成長したり、定常状態になったりしてくれないからである。
これまで唱えられていた理論は例えば以下のようなものがある
=8cm
こんな感じにうまいこと軌道がずれていくことでできる見かけのパターンであ るとするものである。そうはいってもエピサイクル周期も半径に依存するし、 なぜ同じ半径では大体位相がそろうのかとか、うまいことスパイラルパターン がでるようにその位相が半径によってずれるのかとかは良くわからない。
90年代以降この辺はあまり研究されていなかったが、 最近の大粒子数での数値計算(Fujii et al, in preparation)では、初期の Q の値や粒子数によっては、ガスによる冷却効果がなくても非常に長い時間にわ たって非定常なスパイラル構造が見える、ということがわかってきた。
上で述べたような、非定常な構造の進化を考える上で有用な概念の一つが swing amplification である。現象としては、これは、以下の図に示すようなことが起こる、というものである。
=10cm
最初に leading arm (外側のほうが先に進んでいる)な摂動を与えると、これ が最初は巻き込みがほどけていってそのうちに trailing に変化する。その間 に、 trailing で非常に振幅の大きなアームが一時的に見える。これは、 単純にいってしまうと、 leading から trailing に変化する最中だと、モー ドの回転とエピサイクル運動の回転が同じ向きで、このために回転の効果がキャ ンセルされて普通のジーンズ不安定に近い状況になって摂動がどんどん成長で きる、というような話である。
=10cm
但し、これが機能するためにはどこからか leading arm な摂動が供給されなけ ればならない。体計算では、最初にランダムに粒子を置くと、ポアソンゆら ぎからアームが成長していくが、単純にポアソンゆらぎからの成長で、一回切 りの現象だと思うと粒子数を増やせばアーム強度は小さくなるはずである。ま た、成長時間も粒子数に依存しないはずである。しかし、数値計算の結果は、 最大のアーム強度は粒子数に依存せず、また成長は粒子数が大きいと遅い、と いうことを示唆している。